2013/06/06

思考録『クラウドファンディングの周辺概念を整理する』

『ニッポンのジレンマ』や『NHK NEWS WEB』のハッシュタグを拝見して、一般的な認知は、だいぶカオスな状態だということが分かった。そこで周辺概念を整理しようと思う。


◯クラウドファンディング

複数の個人がインターネットを介して、特定の事業に資金を提供する仕組み。
欧米の事例を基準にすると、4つに分類できる。

・寄付型:NPOなどに無償で資金を提供する(e.g. JustGiving)
・融資型:金利+元本返済を前提に資金を貸し付ける(e.g. Music Secruities)
・報酬型:出資者にステッカーなどの創作物・サービスが提供される(e.g. Readyfor?)
・株式型:配当ではなくキャピタルゲインを狙う投資(日本では該当なし)

※ミュージックセキュリティーズ社の小松真美 代表取締役は自社サービスとクラウドファンディングを異なるものとして分類している( 吉野直行ほか<編>『ふるさと投資ファンド』2013.3 )が、一般的には融資型のクラウドファンディングに含まれると言える。

参考:急成長するクラウドファンディング 2012年に約2240億円市場へ
https://bizna.jp/labblog/?p=6391


ご覧の通り、これらの種類・各サイトごとに多種多様な性質を持っているため、混ぜて扱うべきではない。例えば「クラウドファンディングの規制をどうするか」という法律面の課題を考えるに当たって、株式型と寄付型では全く異なるアプローチが要求される。

本日の金融庁に関する報道では「証券会社以外であっても株式型クラウドファンディングで未公開株を扱えるように規制緩和する」という点がポイントである。なお、現在の証券会社の収益モデルでは、構造的に、悪質な金融商品が販売されやすいことが知られている。


200ヶ国でクラウドファンディングを展開するIndieGoGoのCEOであるSlava Rubinによると、株式型(もしくは融資型)において、クラウドファンディングのメリットは5つ挙げることができる。

【1】商品やサービスをウェブ上で公開することで透明性を持たせることができ、リスクを最小化することができる。
【2】クラウドファンディングのプロセスそのものがテストマーケティングの機会であり、ブランドポジションを確立することができる。
【3】通常の融資やVC投資からでは得ることが出来ない露出の機会を得ることができる。
【4】キャンペーンを通じて将来の見込み客の顧客データを獲得することができる。
【5】設立間もない若いビジネスにとって必要な資金を得ることができる。

参考:新しい資金調達のプラットフォーム、「クラウドファンディング」の急速な進化
http://goo.gl/j9SLN

※これは事業者から見たメリットであるが、個人から見た場合は「自分の資金が何に使われているのか分かる」「タダ同然の銀行預金に比べると利子・売却益を期待できる分だけ好ましい」という点が挙げられる。ミュージックセキュリティーズ社では利子15%の事例もある。

※国レベルで見ると、①資産効果により個人所得が上昇することで消費および有効需要が増加する ②新規事業・起業の促進により供給が増加する、と需給両面でプラスの効果が生じることで、マクロ経済への貢献が期待される。


一方で、課題点・対策は以下のようなものが挙げられる。
引用元は既出(吉野ほか 2013)。

【1】正確な情報発信。類似の詐欺まがいの商品と区別されなければならない。
→リスク把握を容易にするための情報開示の方法の標準化が必要。
【2】個人投資家の利便性。
→他の金融商品との損益通算が可能な対象への組み入れが必要。
【3】販売手数料の設定。
→配当連動型のような適切なモデル構築が必要。
【4】悪徳業者の排除。
→自主規制団体による相互の行動チェック、行政による監視が必要。

※きちんと取り上げている記事・文献を見たことはないが、政府主導でクラウドファンディングを推進することの弊害(政府の失敗)も懸念事項だと私個人は考えている。根本的に経営体制を変革しなければならない悪質な中小企業に対して、政府が税制優遇や補助金を設けて推進した場合、明らかに経済厚生を悪化させる。

参考:エクイティ・クラウドファンディングの展開
http://goo.gl/T3OXT



◯ソーシャルレンディング

融資型クラウドファンディングと重複。具体例はSBIやmaneoで、金利は5〜15%。
証券会社が選定した融資先をサイト上に掲載して出資者を募る。
融資先の情報とは別に、期限、金額、金利、達成度が掲載されている。


◯公開株

既に公開されている株式を売買する。未公開株と異なり、裁定取引が行われる。
そのため、企業の価値と株価が乖離することは滅多にない。
したがって「現在は株価が安いがこのビジネスは将来成功しそうだから今のうちに買っておいて後で値上がりしたら売ろう」という判断ができない。
結果、個人所得増加やベンチャー企業の資金調達に制限が掛かっている。
逆に言えば、未公開株の購入が可能になれば、この問題が解決される。


◯エンジェル投資家

ベンチャー企業を支援する個人投資家。
他の資金提供機関に比べて条件が緩やかな場合が多いと言われている。
米国では成功した企業家が次世代を育てるためにエンジェル投資家となるケースが多い。


◯ベンチャーキャピタル

ベンチャー起業に出資、立ち上げや拡大をサポートする。
出資額に応じて株式を取得することで、比較的安価に未公開株を購入する。
上場後の株式売却で利益を出す。

当然ながらリスクも大きい。
成功確率を高めるために支援制度を整備しているところが多い。
ただ、日本ではそもそもの絶対数が少ないと言われている。


◯証券会社

幅広い金融業務が可能。社会貢献としてマイクロファイナンスを対象とするファンドや、
国際協力機構(JICA)の債券を発行しているところもある。

一方で、金融商品の売買では成果連動型ではなく固定手数料モデルを採用。
投資信託を買った人が儲かろうが損しようが営業担当の給料には影響しない。
そのため、良質な商品を選ぶインセンティブが生じない。
結果、本来であれば売られることのない悪質な商品が販売される構造になっている。


◯民間銀行

預金をもとにして企業に融資することで返済利子・手数料を稼ぐ。
しかし、預金の元本保証が要求されるためリスク資産を保有しにくい。
また、金融危機や財政問題を受けて、安全資産の保有比率を上昇する動き。
中小企業やベンチャーに資金を貸し出すことは困難。


◯政府系金融機関

独自の債券(財投債)を発行+政府からの補助金で資金を得る。
民間銀行に比べて長期・低金利での融資が可能だと言われている。
民間銀行では扱えないリスクの高い事業や社会性のある事業に融資する。
財政再建の過程で縮小傾向(民営化など)。


◯地方銀行

民間銀行と基本的に同じ。社会的信用が弱い事業への融資は困難。
ただ、地域の経済発展に貢献することが社会的に求められている。
後述のNPOバンクに出資することで、社会課題への対応は外部委託するケースもある。


◯ROSCA(講、ゆいまーる)

地域の人々が互いにお金を出し合う相互扶助システム。日本では江戸時代頃から存在。
例えば、積み立てられたお金を元に、参加者の1人が農具を購入する、といった用法。
返済できない場合、村八分や夜逃げが起きる。


◯信用組合

現代の日本のROSCA。地域住民による相互扶助システム。
歴史的には江戸時代の講を明治期に再編したもの。

出資者の1人が事業を始めるときに、信用組合から資金を調達することが可能。
審査方式は「人」で、顔をよく知っている仲間だからこその融資が可能。
目に見える関係を維持して飲み会に出席しないと行けない、などのルールがある。
透明性を確保して信用してもらうことで、銀行では融資できない事業も支援される。


◯NPOバンク・市民ファンド

信用組合が地域をメインとしているのに対して、分野をメインにしている。
例えば、環境活動や保育活動に特化したNPOバンクを挙げることができる。

融資希望者はまず自分自身が出資する必要がある。
その上で、融資額に応じて借り入れることができる。
例えば、1万円を融資すれば100万円・金利5%で調達できる、といった具合。
クラウドファンディングと組み合わせて、融資の一部を外部から注入するケースもある。


◯マイクロファイナンス

ROSCAの派生。5人組といったグループを活用する。
外部の銀行(もしくはファンド)から資金を有利子で借り入れる。
クラウドファンディングと組み合わせて、融資の一部を外部から注入するケースもある。

返済不可能な人がいた場合は他の人が代わりに返済する。誰か1人でも成功すれば良い。
社会的信用がない人であってもグループ化することでが貸し倒れリスクを最小化する。
そのため、貧困層・女性・マイノリティ支援と相性が良い。



以上、簡単なまとめ。
少しは整理されましたかね。