2012/11/28

災害金融を再考する。


先日、大和証券で行われたカンファレンス『インパクト・インベストメントフォーラム』に参加してきました。副題は、国際協力で実現するあなたと世界の絆 〜地球規模の課題に対する社会貢献の在り方とは〜。

国際協力機構(JICA)が第2回JICA債券を発行するに当たり、投資家に向けて社会貢献の意義を発信することで資金提供の理解を促すことを目的としたプログラムでした。参加者の大多数が70代以上の方々だったと記憶しています。後半では、東日本大震災を初め、世界規模での災害と金融の在り方について議論が行われました。

登壇者は、田中明彦氏(JICA理事長)、小寺清氏(JICA理事)、向殿政男氏(明示大学教授:安全学)、長友紀枝氏(認定NPO法人 難民を助ける会 理事長)。モデレーターはショーン・マクアードル川上氏(経営コンサルタント)。以下、議論内容に独自の補足を加えた忘備録を残しておきます。



●社会貢献ファンドの意義

政策論として、JICAから途上国への融資には「マーケットの安定を促す」という意義があるとの主張がなされた。

例1:タイやマレーシア。長年の支援の結果、途上国から新興国に、貧困層から中間層へと成長しつつある。その結果、市場開拓が可能となる(BOP - Base of the Pyramid)。さらに、20-30年後には融資に対して巨額の返済を見込める。

なお、日本企業が海外進出を検討する際に、JICAが支援してきた国が投資先に選ばれやすい。これを選定効果と呼び、海外投資を導く役割が可視化されている。現地から日本企業への信頼を獲得しやすいことと、JICAが独自に対象国の市場情報を公開していることも理由の1つであろう。

例2:ブラジル。支援によってアマゾン南部の不毛な土地を、世界第二位の穀物生産地に変えた。その結果、干ばつで北米での生産が大きく減少した時には、これまでは食糧価格が高騰していたが、今年はブラジルが第2供給者として控えいたために上値を抑えることができた。

日本は四代穀物のうち小麦・トウモロコシ・大豆をほぼ全て輸入に頼っているため、食糧価格が極端に上昇してしまうとマクロ経済に負の影響を与えてしまう(Y = C + I + G + EX - IM)。経済貢献としての意義はけして小さくない。

例3:フィリピン。JICAは政府と反政府勢力の仲介役を努めた。東南アジア主要国の1つであるマーケットが過度の政治リスクに晒されることを回避することに成功し、日本企業が活躍する土台を作ることができた。

ただ、いずれの例であっても、便益を享受するのは日本企業だけではない。他の外資企業のフリーライダー的な行動を想定し、途上国融資が相対的に損失であることを根拠とした批判の声も大きい。

したがって「その国の人に役立っているか」を追求した支援が「日本人の役に立っているか」という政治的課題に繋がり、なおかつ長期的にはペイできることを十分に検証した上で融資を行わなければならない。社会貢献ファンドの意義と課題は以上の通りである。



●Disaster Finance(災害金融)の課題

特に東日本大震災以降、経済と災害に関する議論が活性化している。しかし、現在の日本が復興するためにどのような措置が必要かというものが中心であり、もう1度災害が来たときに、以前よりも被害を抑えられるのか?より良い復興をスムーズに行えるのか?という点でやや疑問が残る。

後回しにされがちなテーマではあるが、災害金融の制度枠組みを分析することが必要であり、その前段階として課題を洗い出すことが重要な作業だと言えよう。


1:災害のグローバル化。タイの洪水で日本の電化製品販売が被害を受けたように、経済のグローバル化と連動する形で災害も国境を越える。同様に、災害対策も一国内で完結するものではない。

自国の災害→他国から円滑な支援を受けられるように国際的な信頼を獲得しておく必要がある。他国の災害→日本企業の業務に対するマイナス影響を最小化できるよう当該国への素早く適切な支援を実施する必要がある。


2:リスク分散化。脱原発の議論に見られるように、とかくリスクゼロを目指す論調が強くなりがちである。しかし、1つのリスクを抑えれば必ず他のリスクが大きくなる。例えば、ドイツでは自然エネルギー政策に集中投資しているが、利用電力の半分以上は輸入頼みである。

基本的にリスクはゼロワンではない。他国からの電力輸入が経済に与える影響・不安、他国での発電が自然・人体に与える影響、こういったリスクに振り替えているだけなら何ら解決になっていない。ここで求められているのは、リスク分散に基づいた最適なポートフォリオ選択と、何よりも人々の理解であろう。


3:社会的弱者。一般に、自然災害による被害は高齢者・障碍者の方が大きい傾向がある。東日本大震災で亡くなった方の70-80%は高齢者であり、また、障碍者は健常者に比べて人口当たりの死者比率が2倍以上。なお、被害には地域差があり、その要因解明が社会的弱者を災害から守る鍵になりそうだが、十分な研究は成されていない。


4:コーディネーターの重要性。同じ場所に同じような団体が集中する「支援の重複」を避けて、効率的な配分を行うことが3.11の課題の1つだった。情報・技術・金・人・時間といった資源を、包括的に管理して分野別に活用するのである。

現場の人材という意味では、法律学習の重要性を再認識する機会が多いようだ。緊急時にも関わらず、個人情報保護法があるために障碍者の情報を支援団体に提供できなかった事例が挙げられた。法律をどう利用し、どう変えるべきか、という視点が不可欠である。


5:選択的利他性。企業を対象とした経営学での研究によると、人間は「利他的に動く人」に対して利他的に動く傾向がある。そして、全員が利己的に動く組織に比べて、全員が全体利益を意識して行動する場合は約1.65-1.7倍の効率を得られる。

これを政府・世界レベルに拡大した取り組みが必要なのは自明だ。特に日本人は震災直後の協調的な振る舞いに国際的評価を受けているため、災害に対する姿勢・対処を発信するリーダー的役割が求められていると言えよう。


6:予防の評価。米国での試算によると1ドルの事前投資で、災害時に4-7ドルの費用軽減を実現できると言う。しかし、事業仕分けでスーパー堤防が切られたように、100年に1度のハザードに対して今あなたが投資できるか?と問われると迷いが生じるのである。

事後対処に比べて予防の価値は見えにくい。フィリピンの紛争も、予防に成功してしまったら「予防努力」は可視化されない。紛争が起きて初めてその価値に気付ける。自然システムを巡る環境経済学の典型的な議論と同じだ。森林の保水効果は失って初めて気付く。今回の震災も、復興には多くの人が関わっているが、防災は誰が何を担うのかさえ未定だ。

この問題を考えるには機会費用の概念が不可欠であり、予防行為に適切なインセンティブを設けるべきだ。JICAではまだ価格評価制度を確立できていないとのこと。なお、国際協力における災害予防は、ハザードマップや防災セミナー、耐震工事に関するKnowledgeの共有が例として挙げられる。

⇒参考?:地震保険研究No4『巨大災害リスクに関する研究』
http://www.nliro.or.jp/disclosure/q_kenkyu/No04_B.pdf



●予防評価に関する議論

アジア開発銀行では災害による被害額として538億ドルを推計している。これを1/4〜1/7で割った値が、必要な予防額と考えることもできる。すなわちアジア圏で80-140億ドルを出資できれば良い。あくまでもマクロな枠組みでの議論になるが、日本の公共投資の数%程度の金額であり、拠出は十分に現実的だと言える。

ただ、この被害額はあくまでも産業資本と産業連関に基づいたものに過ぎないという指摘がある。震災で亡くなった人、健康を損ねた人のような「人的資本」あるいは森林や海のような「環境資本」といった拡張会計の議論は無視されている。また、将来得るはずだった利益が消失したため、将来世代の負担・機会費用を換算する必要もある。

いずれにせよ、対災害用プール金を設ける意義は大きい。しかし、民間企業にとっては損害保険・引当金に相当する=負債・費用扱いとなるため「必要なのは分かるけど他の企業がやってくれたら嬉しい」という立場に帰結する。

こうした状況を改善するために政策金融ではいくつか施策を行っている。例えば、日本政策投資銀行は、独自の防災基準を満たす建物に対して貸出金利を低下させる仕組みを設けている。ただ、民間金融機関への圧迫が懸念されることもあり、手放しでは喜べないだろう。


※ODAの特殊性。グラント・エレメント(贈与の度合い)という指標を判断基準に用いており、25%以上でODAとして認められる。融資について、割引率10%+返済金額なしの条件化で現在割引価値に換算。融資条件が厳しいほど値は小さくなる。つまり、ODAは融資条件が緩いほどより良いという判断になる。



以上、カンファレンスで行われた議論をまとめました。

ソーシャル・ファイナンス(Social Finance)とでも言うべきでしょうか、この分野は実務上の必要性が大きいにも関わらず、まだまだ議論が不十分なようです。参考資料も豊富ではないと思うので、まぁマイナーな分野ではありますが、情報を共有しようと思った次第であります。

終わり。

2012/11/20

自己紹介的なことをまとめておく。

Starticle Inc.でCOO(副社長的なポジション)をやっています。WEBサービスの開発や事務周りを担当しています。国際プログラミングコンテスト受賞経験アリ。これまではJavaかPHPがメインでしたが、最近はRailsの手軽さにハマりつつあります。色々作りたい。

専攻は金融論。いま扱っている研究テーマは、WEB上での少額投資(Crowd Funding)において、損失を抑えて投資家保護を実現するための理論モデル構築と、そのシミュレーションです。個人的に気になっているけど時間がなくて手を出せないでいるのはポーカーなどのギャンブルに関するミクロ経済学的な分析です。

普段は相模湖にいますが、そろそろ東京の北東部に移住します。

2012/11/16

インタビュー:新興国の「個人向け金融」を訪ねて



東南アジアを初めとする新興国で、給与上昇によって中間層が増加していることを背景に、個人向け金融サービスが活発になっているようです。そこで、リアルな情報を得るために、現地の方々にお話を伺ってみました。



もくじ
・日本での報道
・インドネシア新聞社の方へインタビュー
・各新興国の方々の言葉







(c) .foto project





●日本での報道


日経新聞(2012.10.08)によると、



・SMBCコンシューマーファイナンスは中国での無担保ローンを展開。
(市場:中国全体での小口融資残高は2010年末より2.5倍)

・セディナはベトナムで自動車ローンを始める。
(市場:公共交通機関が少ないため、自動車への需要が大きい)

・JCBはベトナムやバングラデシュなどでクレジットカードを発行。
(市場:オセアニア+アジアだけでも2015年には10年比で1.5倍になると予想)

via『個人向け金融 新興国へ 中間層増え利用急増


と、東南アジアなどの新興国で個人向け金融サービスが増加しているようです。




とは言うものの、私が実際にアジアをぶらりと歩いた感じではあまり金融分野の発展を感じることはできなかったので、各国現地の事情に詳しい方々にお話を伺ってみました。





●インドネシア新聞社の方へインタビュー



『じゃかるた新聞』営業部 森裕介
http://www.jakartashimbun.com/


――アジアでの個人向け金融が盛り上がっていますが、インドネシアではどうでしょうか。

非常に増えていますね。特にインドネシアで最も話題なのが、二輪と四輪の販売台数の多さです。これはローンで買わせて伸ばしているという側面も強いです。

今年の5月までは少額の頭金で買えたのですが、事実上ないも同然の金額だったため、さすがにやりすぎということで頭金規制が6月に始まりました。


――返済トラブルが多発していたわけですね。

その通りです。10万円くらいのバイクを買うのに、頭金5千円と言えばイメージできるでしょうか。2-3ヶ月ほど乗り回した後、返済できないから没収される、といったケースが多発していました。

6月の規制はひとことで言えば金融セクターの健全性維持のためです。無審査に近いローンで、頭金がほとんどない状態でも、各社が競って貸し出していた。当然ですが、焦げ付くに決まっています。


――個人向け金融ではクレジットカードも成長市場ですね。

手前味噌ではありますが『じゃかるた新聞』の記事でも取り上げております。

「インドネシア・クレジットカード協会(AKKI)によると、今年1―8月の総取引額は前年同期比11%増の133 兆2100億ルピア(約1兆1千億円)を記録した。クレジットカード登録枚数は8月末時点で1500万枚に達し、 年間で1割増のペースで増加している。」

一人当たりGDPが3000ドルを超えると消費が加速すると言われています。まさにその加速が始まりつつある状態でしょうね。


――クレジットカードの手続きや利用法は日本人と似ているのでしょうか。

日本とは違い、カルフールやスーパーで顧客に作らせているのをよく見かけます。主なターゲットとしては月収3~5万円より上の中間層が使っているように思います。貯蓄をしない上に計画性のないインドネシア人マインドを考えると焦げ付き続出が懸念されます。


――何か政府は対策を行っていないのでしょうか。

もちろん、放置をしているわけではありません。今年3月にはカード保有に関する新規定を発出しました。

1:カード保有者の年齢制限を、現行十七歳以上から二十一歳以上に引き上げる。

2:クレジットカード取得の最低月収を三百万ルピアとする。

3:月収三百万ルピアから千万ルピアでクレジットカードを二枚持つことができる。

4:利用限度額を月収の約三倍までとする。

5:月三・五―三・七五%を基準に、クレジットカードの手数料金利の通常計算である複利の禁止。

といった規制です。

インドネシアを初めとして新興国では、経済成長と同時に多くの問題が健在化しています。政府が適切な規制を行うことで人々の生活がより良い方向に向かうことが重要です。






●各新興国の方々の言葉


ーー中国について

最初の予想では、所得が上昇していて金融サービスもバンバン使っているイメージでした。ところが現地の学生にfacebook経由で話を伺ったところ「若年層の給料はそこまで高くないよ」とのこと。おそらく競争社会を勝ち続けた一部のサラリーマンが中間層としての地位を得ているのではないでしょうか。


ーーベトナムについて

インフレの沈静化によって再び成長を始めたため、金融に限らず非常に多くの企業が乗り込んでいる模様です。現地在住、HRインスティチュートの川村泰裕さん曰く「クレジットカードが使える店は増えた印象」とのこと。


ーーバングラデシュについて


skypeでグラミン銀行のMaruf氏に話を伺ったところ、バングラは年6%の成長を続けており、2021年までにはMiddle Level Countryに到達することを目指しているとのこと。したがって、クレジットカードを初めとする個人向け金融サービスの需給ともに増加が見込まれている。

ただ、akanat(株)代表の田中秀喜さん曰く「クレジットカードの普及率はここ数年上がっているものの、使える場所はダッカほか主要都市部に限られている。まだ超一流企業の役員レベルぐらいまでが持っている印象。ボーダーは月に10万円貰っているかぐらいに思っています」とのこと。

また、

・カード会社はVisaが多い。
・一度撤退したアメックスがcity bank(※citiとは別)と提携して戻って来たのが約三年前。
・JICAのシニアオフィサーが月10万円くらい。
・ただ、携帯電話会社の新入社員が月10万いくという噂もある。
・カード決済は掛け商売=資金の回転率が落ちることから、やりたくない店が多いと予想される。

とのことです。

つまり、まずは限られたお店で役員級の方々が使う→カード所有者が増えていく→導入店舗が増えていく、という流れになるのではないでしょうか。





情報提供にご協力いただいた方々、誠にありがとうございました。

記事や統計から学べることが多いのと同じように、リアルな生活から読み取れることも沢山あるわけですね。私が放浪してた期間なんてたかがしれているのだな、と思い知らされました。ちょっと、これはアレですね、時間があれば3ヶ月くらい住み込みで現地を視察したい気分です。

それにしても新興国の経済は面白いっす。アジアでビジネスをやっている方々が、皆さん輝いていて羨ましいですね。機会があればアジア就職・起業に関するインタビュー記事なんかも載せたいかも。

終わり。

⇒関連:新興国在住の方々にお話を伺った。
http://togetter.com/li/407865

2012/11/15

Re2:「日本に寄付文化が根付かない」を金融資産市場から問う。

前回エントリーのコメントを送ってくれた @ysnb1 さんから補足情報として、某メルマガの内容を転載してくれました。

備忘録として、簡単な要約とそれに対する私の考えをまとめておきます。



●ここ最近で寄付が盛んになってきた。

・ウィキペディア。
・マラソンの藤原新選手(ニコニコ生放送でプロモーションを行い、わずか一週間で1000万円もの寄付を集めることに成功)
・ソーシャルファンディング系のサイト(特にテクニカル系のプロモーション「俺たちがあなたの未来を素晴らしいものにしてみせる」)
・個人のサイトやブログで寄付を募るのもよく見かけるようになってきている。
・今や寄付活動は「誰もが気軽にできるもの」に変化。


⇒Comment:寄付の金額や効果測定、過去との比較が論じられていないのでこの主張が正しいかは何とも言えないですが、一般の人々の目に留まる機会やツールは増えているのかもしれませんね。



●SNSの興隆、先進諸国の経済の行き詰まり

1:SNSの登場
→他人の個人情報に日常的に触れるように
→日々の共感
→共感し合う者同士が集うコミュニティが形成
→コミュニティの中心人物の魅力に注目が集まる
→その人物を通じて情報交換=支え合う機会が増加(国家:国民:税の関係に近い)
→自分がそのコミュニティを支えるのだという意識
→寄付に繋がる

2:先進諸国の経済の行き詰まり
→人々を素直にさせる(堂々と「金がない」と言える)
→「十分な資金がなければ良いものは生み出せない」が共通認識となる
→寄付の要求を発言する/聴く土壌が成立
→寄付行為に対して価値を感じる、可能性を感じさせる工夫が必要

つまり「自分の利益」=「コミュニティの利益」=「寄付する人の利益」の成立が条件。
そのためには

1.とにかく好きなことをする(共感を生む)
2.その活動を多くの人に伝える(共感を広める)


⇒Comment:論旨については、1つの解釈というか、仮説としては面白いんじゃないでしょうか。

⇒Comment:重要なポイントは、コミュニティの構成員に『共感』を広げることで寄付が集まるという点ですね。前々回のエントリーで私が「非金銭的対価/金銭的対価」でセグメント分けしましたが、この非金銭的対価で「興味を持つ20%」「中間の60%」に対するアプローチを論じました。まさにその部分を補強する考え方だと思います。



●ここで言う寄付とは

< Not >
・震災に対するものとは異なる。
・絶望の穴を埋めるための寄付とは異なる。
(善意に基づくセーフティネット?)

< But >
・自分のための努力→なぜか周りに応援される立場→寄付が集まる。
・自己中心的な活動がなぜだか他人の役に立ってしまう。
・希望の光を照らすための寄付
(可能性に対する投資?)


⇒Comment:どの側面に焦点を当てるか、という問題でしょうね。仮に震災復興であっても、被災地に新しい産業を生み出そうとしている若者たちのブログで寄付を募るのであれば後者です。震災が起きる…といった外部要因がなければ、非営利団体が意図的にファンドレイジング・キャンペーンを行うためには、この主張のように「希望の光を照らすための寄付」を集めるのがベターかと思われます。



まとめると、コミュニティと共感で寄付を増やしましょうという話でした。私が前々回に主張したのは、そういった手法だけではなくて、「寄付に興味のない20%が必然的に寄付してしまう仕組み」「金銭的対価を打ち出す寄付システム」に注目してみるのも重要ではないか、ということですね。

終わり。

2012/11/12

Re:「日本に寄付文化が根付かない」を金融資産市場から問う。

前回のエントリーに対するコメントを戴いたのでメモ代わりにまとめておきます。
@ysnb1さんの日本人と寄付 http://togetter.com/li/404771 より。


●前回の概要

話をまとめると「日本人寄付しないね。カナダ人寄付するね。カナダ人の方が所得高いけど、理由それだけ じゃないよね。日本人て、お金についてあんま考えず、とりあえず貯めるよね。結局、日本人は寄付する金がないか、寄付する事をあんま考えてないんだよ ね。」て事だと読んだ。(ysnb1)

→ comment:市場がないという話です。



●所得≠寄付

日本は、90年辺りを境に景気がガラッと変わってるから、そのせいで寄付をしないという可能性は指摘できるけど、きっと、寄付はその前と後であんまり変わっていないと思う。(ysnb1)

→ comment:そもそも日本で寄付を受ける主体(CSO)が活発になったのが阪神淡路大震災以降だからデータが取れないんですよね。



●寄付の歴史

考えてみたら、寄付って、昔はお坊さんにするものだったんだよね。その時は、農民は豊かではなかったはずだけど、それでも一定量の寄付があったはずだ。んじゃ、なんでその寄付文化が他に根付かなかったのかというと、それは、「村社会」だからな気がする。(ysnb1)

→ comment:なるほど。お坊さんというか、地域コミュニティの中心機関であるお寺に寄付することで公共事業が行われる相互扶助形式だったみたいです。



●寄付の仕組み

つまり、「寄付は、強制されてはいないけど、寄付しないとその村で生きるのに、色々と不都合あったんじゃね?」てこと。強制されてはいないけど、強制されているという状態。 じゃ、これを現代に置き換えるとどうなるか。キーが二つで、会社とムード。(ysnb1)

→ comment:ほうほう。アレですね、小学校のトイレでうんこできない…みたいなソフトパワーが働いているわけですね。



●会社というコミュニティ

今は、村社会ではなく会社社会。会社の為に、みんな命すら投げ出す。例えば、会社で、「我が社も社会貢献しないといけないから、自由参加で、給料から500円天引きしてそれを寄付に充てよう」だったら、割と参加する人はいると思う。(ysnb1)

→ comment:これはナイスだと思います。損保ジャパンがまさに同じことをやっていて、今年度は5800万円の寄付を集めているようです。



●寄付するムード

次にムード。大地震の後は、「何かしなきゃ」ムードがあった。地震を発生させるわけにはいかないけど、何らかの方法で、「私も寄付しなきゃ」ムードを作り出せれば、勝ち。正直、ご飯と女の子とパチンコの事しか考えていない人には、寄付の重要性とかもろもろは理解出来ないし、させる必要もない。(ysnb1)

→ comment:例えば介助犬の映画がヒットした年は、他の年に比べて何倍も寄付が集まるようです。ただ、ムードの低下と同時に翌年以降は例年通りとなってしまう+ムードに乗じた募金詐欺の多発という問題点も指摘されています。

→ comment:クラウドファウンディングのような枠組みの上で、キャンペーンとしてより多くの寄付を集める取り組みは必要だとは思います。なので、ムードを活かす枠組み・より多くの人に寄付してもらうハウツーを作るのは必須でしょうね。



●その他

1:あと、休眠口座はちきりんさんが指摘して割と有名だけど、他には、相続のアテがない遺産とか、そういうものを掠め取るのも大事だと思う。(ysnb1)

→ comment:休眠口座・遺産は寄付よりも財政に直結すると思います。そこを民間が好き勝手にやってしまうのはむしろ危険かなと。


2:でも日本て、金出す割に発言力がないよーな気がするけど、外交のコミュ力どうなってんの?(ysnb1)

→ comment:コミュ力というか内容の問題だと思いますが。自国の利益を獲得するための外交戦略・方針がブレている印象は受ける。あくまでも大手メディアの報道を軽く視聴する限りではね。


3:これは適当なアイデアだけど、東洋経済あたりが、「役員の寄付金額ランキング」とかやったら面白いかもね。(ysnb1)

→ comment:どうなんでしょうね。それで寄付が増えますかね。むしろ税制を変えることで役員が寄付した方がお得な仕組みにするほうが効果的じゃないかな。



●まとめ

・ハード面:寄付を選択する環境(≒市場)を整えるのは重要。
・ソフト面:選択せざるを得ない状況を作り出す→コミュニティ、ムード。

・コミュニティ:生活の中心となっている場所にシステムを導入する
(=会社で給料から500円を差し引く、など)

・ムード:寄付しなきゃ!と思わせる状況を作る/演出する
(=キャンペーンやイベントなど?)

正確には対応するわけではないのですが、キャンペーンやイベント=前回記事での前半部分「貢献意識」で、会社=前回記事での後半部分「市場を作る」に近いのかなと思います。

んで、前回エントリーで後半を強調したのは、この「会社で給料から500円を差し引くシステムを導入する」「役員が寄付したくなる仕組みを作る」といった部分がかなり強力な力を持つのではないか、と伝えたかったからです。


少し議論が整理されたかな。こうやって意見を出し合って話を収束させていくと、いい感じに落としどころへまとまっていく気がします。ディスカッションは好きです。

続く。

2012/11/07

「日本に寄付文化が根付かない」を金融資産市場から問う。

しばしば、日本には寄付文化が根付いていない、と指摘されます。その意見自体は間違っていないと思うのですが「だからダメだ」という非難だけで終わるのは非生産的だと思います。そこで、ひとつファイナンスの視点から考えてみました。


対象:
日本の寄付問題に関心のある方
ファイナンスの学習者

主張:
政府や金融によるソリューションを推進すべきではないか。

注意点:
私個人の見解であり、所属する組織・団体とは無関係です。
経済用語が多用されているため読みにくいかもしれません。



内容  1:寄付問題とは何か
 2:啓発について
 3:経済的インセンティブについて
 4:なぜカナダの募金が活発なのか
 5:まとめ






(c) .foto project





先日、某ベトナム料理屋でWWF(世界自然保護基金)ESD-J(「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議)のインターン生たちと「日本の寄付文化」について議論しました。曰く、外国に比べて日本では寄付が活発ではない、とのこと。そこで少し考えたことをまとめてみました。





【1:寄付問題とは何か 】

そもそもの発端がこちら
>『会員が少ない ― 欧米から問われること』(WWFジャパン):環境goo
http://eco.goo.ne.jp/work/npo/vol08/02.html

要約すると
1:世界自然保護基金(WWF)では会員になることで定期的に寄付を行う
2:日本では2005年度末の時点で会員数が2万人(国内では大規模)
3:カナダでは会員数が5万人(人口は日本の1/4)
4:世界と比べて日本では寄付文化が未熟・市場が無い
とのこと。

そこで、日本に寄付文化を根付かせるにはどうしたらいいだろう?という話になったわけです。んでんで思考アプローチの手法としては2通りあるんじゃないかなーと思います。

1つは「文化を根付かせる」→「啓発しよう!」という王道手法。
2つは「なぜ個人は寄付しないのか?」→「経済的枠組みで考えよう!」という手法。





【2:啓発について】

まず、前者について。「皆が寄付するように啓発しよう!」ってことで、様々な団体が様々な取り組みをしていますよね。少しずつでもその量・質をアップグレードしていくことで、徐々に浸透していくはずです。

ここで、対象として「社会貢献に積極的な上位20%」「興味はなくもないけど積極的ではない60%」「全く興味ない下位20%」の人々を仮定してみます。上位群は自主的に調べているので、何らかの企画を打てば反応してくれる。この生命線をコンスタントに獲得するのが既存の取り組みの大事なところ。

当然ながら下位20%は何をやっても反応しない。というわけで、真ん中の60%をいかに巻き込むかが今後の課題ではないかなーと思っています。いわゆるチャリティーイベントがその代表例でしょうか。飲み会に参加するだけで参加費の一部が途上国に!みたいな。

ただ、理想としては下位20%が募金してもおかしくない仕組みを作ることですよね。例えば、空港に募金箱を置くことで、両替できない小さな外国貨幣を「持っていても仕方ないか」と募金する。邪魔な小銭を片付けられるので、むしろ効用プラスかもしれない。

こういう考え方に基づいた取り組みは、色々とアイデアは出てくるでしょうし、やりがいもありそうです。今後さらに盛り上がっていくんじゃないでしょうかね。手前味噌ですが私が台湾で先日行ったプレゼンテーションでも、この「積極的ではない人を募金に巻き込むビジネス」を提案させていただきました。絶対面白いと思うんですよね。







【3:経済的インセンティブについて】

次に、後者について。「なぜ個人は寄付しないのか?」を日本の経済から考えてみたいと思います。

前提として、満足感購買説(寄付を行う理由=「自分は社会貢献に関わっているんだ」という満足感を買っている)という考え方は置いておきます。これは啓発の議題に対応するからです。また、計測も困難です。

なので、もう1つの理由=「寄付控除や企業のイメージアップに繋がる」という点、つまり経済的なインセンティブの観点を考えてみたいと思います。(ここでは企業ではなく個人の話を念頭においているのでイメージアップ云々は当てはまりませんが)

※日本でも認定NPOへの寄付控除があるので、
知らなかった人はこの機に覚えておいて下さい。

寄付控除とは?:税金基礎知識
http://www.taxguide.jp/contribution/

寄付金控除を受けるには|寄付サイトGiveOne(ギブワン)
http://www.giveone.net/cp/pg/article/TaxPage.aspx

ここで私が言いたいのは、単なる善意だけではなく「経済的な性質を持つことでマーケットが生じている」という側面が事実としてある、ということです。んで、経済という側面から募金を考えると、「カナダが日本よりも寄付が活発」な理由が見えてきます。





【4:なぜカナダの募金が活発なのか】

①1人当たりGDPが、日本<カナダ

WWFの記事に合わせて、2005年の国民1人当たりGDP(購買力平価で換算)を見ると、日本 30.773ポイント に比べて、カナダ 34.091ポイント とやや高くなっています。

[PDF注意]国際比較で見る1世帯当たりの資産と負債
http://www.nli-research.co.jp/report/econo_report/2007/ke0706.pdf
※ちなみに最近だとこんな記事も。
→カナダの平均世帯収入がアメリカを上回る:シングルマザーMBA留学&起業 in バンクーバー
http://ameblo.jp/shinecanada/entry-11318236044.html

ただ、「決定的な差ではない」「購買力平価説に対する反論もある」「平均ではなく中央値を使うべき」「GDPではなく可処分所得を用いるべき」「単年度のデータだけでは立証できない」とツッコミどころ満載なんですよね。すぐにデータが見つからない+加工するの面倒なので勘弁してね。

いずれにせよ、GDP世界3位・人口がカナダの4倍(1億2000万人)の国家レベルだからと言って、必ずしも個人が募金しやすい状況かというとそうではないと思うんですよ。だから、外国と比較して嘆く、というのはどうなのかなーと思っています。

ついでに言うと、消費税はともかく、日本は多種多様で豊富な税金で所得を減らされるわけで。GDPの多くが企業の自己資本に行ってしまうわけで。資金循環が貯蓄→銀行→国債に集中して経済成長の見通しが悪いわけで。その一方で、政府のODAは大きいわけで。ホットな話題を挙げれば世界銀行への拠出額は2位なわけで(*IMF世銀総会の前週にこの文章を書きました)。むしろこれで会員2万人はすごいんじゃ…。

まぁ、それはカナダも同じか。物価は商品ごとに結構違うようですし、仕事環境も色々と違ったりするようです。本格的に分析するなら、どういう変数を選んで比較するのがベストなんでしょうね。

海外生活の現実 カナダの良いところ
http://kaigailife.blog94.fc2.com/?mode=m&no=16

海外生活の現実 日本とカナダ 会社員の違い
http://kaigailife.blog94.fc2.com/blog-entry-25.html

カナダの経済 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88



②日本=個人が金を貯蓄に回すシステム

自分である程度稼いでいる方で、資産や節税に関心のある方なら、さきほどの寄付控除に興味を持っていただけたと思います。ですが知らない方も多かったのではないでしょうか。そもそも資産についてあまり考えていないんじゃないかと思うのです。

コンビニで飲み物を買うようには募金できない理由がここにあります。つまり、財・サービスを獲得する手段としての「消費行動」(B/Sの変化)に対して、資産そのもの・お金そのものへの扱い(P/Lの変化)があまり意識されていないのではないか、ということです。「お金」について考える機会が少ないから、必然的に寄付というある種ファイナンス的な行為が疎遠なのかなと。

ちなみに、個人金融資産の内訳国際比較を見ると、日本は貯蓄56%でカナダは27%と倍近い差があるようです。また、日本だと1000万円を超えた分を現金・貯金以外に変える(他の資産に変えることで節税する)特徴があるので、ほとんどの人は貯蓄+保険/年金だと考えていいでしょう。

世界の個人金融資産の内訳比較
※日本とカナダでデータ年度違うからそこまで信用しない方がいいかも
http://rh-guide.com/data/kojin_sisan_hikakuworld.html
日本人の資産についてはこちら。
※読んだの2年前だからあやふやだけど確かこの本です。
交響する社会―「自律と調和」の政治経済学

つまり、日本人はそもそも「お金=生活費+趣味その他+将来のために貯蓄しておくもの」っていう考え方なのではないか!「寄付文化がない」という言葉はそこに帰結しうるのではないか!という意見です。社会貢献な方々は寄付しないと嘆いて、経済な方々は投資しないと嘆いてますし。貨幣貯蓄が全資産の50%を超えているの主要先進国で日本だけですからね。

原因を挙げるとすれば、20年前のバブル崩壊で株・土地に対してマイナスイメージが定着したこと、高利率での貯金→財政→公共事業という強力な仕組みがあったことではないでしょうか。あと、資産運用や投資信託が悪いイメージを持っていますよね。blogで資産運用というキーワードを使うと怪しさ満点ですからね。日本人はリスクを徹底的に回避してますね。セーフティネットがないと指摘されていますからね。

でも日本に限らず、リーマンショック以降は世界的に安全資産に逃避する傾向はあるんですよね。なので、最近のカナダのDonation事情に何か変化があるのか見てみたいところです。それとも文化・傾向を無視するくらいの税制が整っているのかな。





【5:まとめ 】

以上のように、経済構造から寄付問題を分析すると、

・個人の手元に寄付するだけのお金があるのか?問題
・個人がお金を購買以外に使う環境が整っているのか?問題

に大別されます。



だって、宝くじで3億円が当たって調子に乗ってるとしましょう。そんな時に、可愛い女の子が「募金して下さい!」って言ってきたらどうしますか。男なら札束を募金箱にぶち込みますよ、ええ。つまり、手元にお金があれば寄付するんです。

んでんで、宝くじはほとんどが税金で取られるという話を聞きますけど、仮に一部を寄付したほうが税金で取られる金額よりも低く抑えられるのであれば、9割以上の方は寄付を選びますよね。お金を寄付に回す環境(=市場や社会制度)が整っていれば、人々は選択できるんです。



では、どう解決したらいいか。

1:個人の手元に寄付するだけのお金があるのか?問題

=雇用・賃金問題。まさに世界共通の課題です。
=日本については投資活性化・成長戦略を進めるしかないのかなと思っております。

2:個人がお金を購買以外に使う環境が整っているのか?問題

=今後「ファイナンス×社会貢献」の取り組みが盛り上がっていきそうです。
=少なくとも「寄付」については市場が拡大していくんじゃないですかね。

酒造ファンドとか環境ファンドとか、被災地支援の基金とか色々ありますからね。まだまだニッチな分野もあるはずなので、むしろどんどん立ち上げる勢いでいたいですね。アイデア次第で色々と出来るのではないでしょうか。



後半やや説明が長くなりましたが、これを読んで

「社会貢献って大事!」
「私は自然が好きなだけです!お金の話はするな!」
「政府の役割とかwww 興w味wなwいwかwらw」

と言ってる方々に、政策とか金融という観点も実は大切なんだよー、ってことを少しでも感じていただければと思います。

続く。

2012/11/04

ゆずたそ流 "吉野ゼミ" 攻略ガイド・下

引き続き、独断と偏見に基づく吉野ゼミガイドです。


対象:
慶應義塾大学の1-2年生で入ゼミを考えてる方(主に経済学部)

紹介するゼミ:
吉野直行研究会(金融・計量経済・マクロ)
http://seminar.econ.keio.ac.jp/yoshino/indexnew.html



内容  ①どんなことを学んでいるか
 ②教授はどんな人か
 ③学生はどんな人たちか
 ④ゼミを決めるにあたって
 ⑤入ゼミ試験に向けて ← here!!



【⑤入ゼミ試験に向けて】

個別のゼミ説明会に参加したり先輩に聞かないと教えてくれない情報が何点かあります。んで、それを知っているかどうかが、合否に繋がるかもしれません。私はギリギリまで知らなかった…。

・変更される可能性があること
・独断と偏見に基づいた情報であること

この2点にご注意下さい。
試験概要や変更は公式ホームページできちんとチェックして下さいね!


[試験内容] マクロ・ミクロ・統計・英語(すべて記述)
[注意事項] 志望理由書がきちんと読まれることはない。多分ね。
[持ち込み] 自由。事実上、持ち込んだものを読む時間はない。確認程度に。
[評価方法] マクロでA〜D、ミクロでA〜D、統計+英語でA〜Dの評価が付く。

[合否判定]

・1つでもDがあれば足切り。
・公式見解ではないが、どれか1つでB以上を取れないと足切りの説あり。
・足切りされなかった人が多ければ面接or追加試験。

→面接:学力試験の回答を見ながら質疑応答。ミスをカバーするチャンス。
→追試:マクロかミクロの問題が即席で黒板に書かれる。過去問と同じノリ。

[難易度]

慶應経済ではトップだけど、対策すれば受かる。
努力と結果が比例するという意味では簡単かも。

[推奨テキスト]

試験攻略新経済学入門塾 1 マクロ編 (1)
試験攻略 新・経済学入門塾〈2〉ミクロ編
試験攻略 新・経済学入門塾〈3〉上級マクロ編
試験攻略 新・経済学入門塾〈4〉上級ミクロ編

合格者の多くがこのテキストを使っています。
分かりやすい言葉で基礎を理解できる仕様です。

[対策]

①テキストを通読。とりあえず理解する。

②必要に応じて学習・確認しておく。
マクロ:AD・AS分析、ミクロ:コブダグラス関数、ラグランジュ乗数法は必須。
→オススメは『弱点克服 大学生のミクロ経済学

③統計学で穴があれば埋めておく。
→オススメは『統計学基礎講義

④過去問をひたすら解く(HP上に20年分アップされている

→調べながらでも、きちんと自力で解答を導出する。
→良問が多いので解きながら理論を使いこなせるようになる。
→問題集を解くよりも効率的に理論練習・試験対策を行える。

→20年分もあるので惜しまず使うべし。
→近年の傾向があるので新しいものから解いた方が良い。


※問題のパターンは限られているので要領の良い人ならすぐにコツを掴めるはず。私は3年分解いた段階で読めたので後はその3年分を色々な角度から検討してた→実際に出て来た問題もほぼ予想通りのところですた。


まぁ、これはあくまでも私のやり方です。周りの人を見ると、ほぼ全員が20年分を解いているし、さらに3周したという人もいる。それだけやれば99%受かりますわ。基本的に「過去問を解けば解いただけ受かる確率が上がる」とは思います。なるべく早いうちから、なるべく多く、なるべく濃く、過去問に触れたもの勝ちですね。





こんな感じっすー!
あくまでも私個人の独断と偏見に基づいた情報ですのでご注意下さい。


「何から始めたらいいか分からない」という方は、とりあえず…

①上記の教科書を見てみてはいかがでしょうか。標準的なテキストなので、一通り読んでおいて損はないはずです。マクロ・ミクロの単位が不安な方、授業の聞き漏れがある方は通読必須です。

オープンゼミ、説明会に参加してみてはいかがでしょうか。先輩10人に話を聞けば10通りの答えが返ってくると思います。モチベーションや雰囲気を掴む意味でも参加しておいて損はないはずです。

③情報収集してみてはいかがでしょうか。吉野研究会ホームページや公式twitterアカウント(@yoshinozemi2013)ではゼミ試験を受ける1、2年生向けに最新情報を提供しています。ぜひチェックしてみて下さい。

他にも何か相談したいこと・聞きたいことがあれば気軽にコメント欄かtwitter(@yuzutas0)で声をお掛け下さい。私で答えられることなら答えますし、他のゼミ生に投げかけることもできます。可能な限り力になりますので!



途中で書いたけど、吉野ゼミの人は「やることをしっかりやってる」ところがあって、その姿勢に少なからず学ばせてもらってます。なのでまぁ、普段なかなか同期・先輩に恩返しできていない気もするので、後輩になるかもしれない方向けに情報を発信してみました。

少しでもお役に立てれば幸いです。
おわり。

ゆずたそ流 "吉野ゼミ" 攻略ガイド・中

前回に引き続き、独断と偏見に基づく吉野ゼミガイドです。


対象:
慶應義塾大学の1-2年生で入ゼミを考えてる方(主に経済学部)

紹介するゼミ:
吉野直行研究会(金融・計量経済・マクロ)
http://seminar.econ.keio.ac.jp/yoshino/indexnew.html



内容  ①どんなことを学んでいるか
 ②教授はどんな人か ← here!!
 ③学生はどんな人たちか ← here!!
 ④ゼミを決めるにあたって ← here!!
 ⑤入ゼミ試験に向けて





合宿にて photo by ありさ





【2:教授はどんな人か】

んーと、お茶目です。めちゃくちゃ頭が良いですね。有識者の方々同士で繋がっていることもあり、色々と貴重な情報を提供してもらえます。

経歴→
http://www.rieti.go.jp/users/yoshino-naoyuki/index.html
http://k-ris.keio.ac.jp/Profiles/0030/0006235/profile.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E9%87%8E%E7%9B%B4%E8%A1%8C

英訳(例文が…)→
http://ejje.weblio.jp/content/%E5%90%89%E9%87%8E%E7%9B%B4%E8%A1%8C

放送大学での授業:社会と銀行(’10)→
http://www.ouj.ac.jp/kamoku/detail/1837320/



あまり個人的なイメージで語っても仕方ないので本人の言葉が載った記事を読むのが良いのではないでしょうか。時々テレビや新聞に出ていたりするのでチェックしてみてください。

MANABI.st:英語仕事人に聞く
http://manabi.st/n/yoshino.php

第5回日経STOCKリーグ記念講演「これからの資産管理~日本と海外の違いから~」
http://manabow.com/sl/result/5/ceremony/lecture.html

このままでは日本はIMF管理下に - 三万人のための総合情報誌『選択』
http://www.sentaku.co.jp/interview/post-1552.php

大和総研 / 内需主導に向け、中国は為替レートの制限緩和と需要拡大策が必要
http://www.dir.co.jp/souken/research/dialogue/15_20120706_1.html

社債市場整備で日本経済の衰退を阻止|FNホールディング
http://www.fng-net.co.jp/itv/2010/100628.html

日本国債への投資余力「まだある」 | Reuters
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-38663420090622

地域金融の未来図 地域応援のファンドを
http://www.qbiz.jp/article/3592/1/

切り売り超えた発想の転換を:日経ヴェリタスセレクト
http://s.nikkei.com/Si6Mvb


授業中にお喋りをするひとや遅刻する学生をdisります。下の3割の学生はどうしようもない奴らだ…みたいな感じで。たまにトンでもないことを言い出したりします。年金問題は老人が全員死ねば解決するとかw(注:もちろん本心から願っているわけではなく、財政システムが人口構造に依存していると解説するために極端な例を出しただけです)。ただ、学生からの声として「このひとの授業を真剣に参加すれば相当実力が付く、ためになる」という点で、ほぼ一致している感じですね。

個人的には、夏合宿の食事中に「状況が変わっていくから経済は面白い」という話を聞いて、好奇心というか知的欲求みたいな面でシンパシーを感じました。どんな形であれ「経済」に少しでも魅力を感じているなら、どこかで合うと思いますよ。

最初の授業での教授のお話をまとめたものがこちら。
→教授の言葉 "学生が注意すべきポイント3つ"
http://yuzutas0.blogspot.jp/2012/04/3.html





【③学生はどんな人たちか】

<生活面>

優しい。マジで優しい。コミュ障の私を誕生日パーティーに誘ってくれるくらい優しい。サークルに呼んでくれるくらい優しい。つまらんギャグでも笑ってくれるくらい優しい。

<勉強面>

代表・副代表を初めとして勉強熱心な方は多い。メーリスで勉強の機会・情報が流れてくれば、誰かしらそれを活かして学びのチャンスを掴んでいる気がする。

例えば、23期代表は他の学生より1年早くERE(経済学検定)や公務員試験を受けて結果を出してる。彼が面接に受かったのは50%くらい私のアドバイスだと思ってるけど←

<その他>

あと、やっぱり「やるべき努力を怠らない」人が多いイメージ。野球部が3年間毎日素振りをするような、そういう力強さがある。この点についてはめちゃくちゃ尊敬してます。

ただ、イケイケで議論をするような空気ではない。色んな学生が集まっていて、それぞれが良いものを持っている割に、積極的に表に出す機会は少ないと思います。金子勝ゼミの友人が毎週ディスカッションをしている話を聞くと少し羨ましい気持ちになることも。





【④ゼミを決めるにあたって】

自分で考えて自分で決めるのが一番良いと思います。「こうやって決めた方がいいよ」みたいな意見は先輩だろうが他人の意見なので。

とりあえず吉野ゼミの特徴というか、空気はこれまでの文章で掴めたはず。まとめると「頑張ろうと思えばいくらでも頑張れて学びに繋がる」「そこまで頑張るつもりがなくても、周りに影響されて、やるべきことを最低限しっかりとこなせば気付いたときには力がついている」環境ということですね。良い環境だと思いますよ。


ちなみに私がゼミを決めるに当たって用いた基準は以下の通り。

・入試を通して総復習ができる(せっかくのテストなので勉強に利用しようかと)
・面接がない方がベター(ゼミ員面接で友達がいたらネタで叩き落されそうw)
・成績が見られない方がベター(叩き落とされるw)

・定量的な視点を獲得できる(日吉時代に定性面だけの議論に限界を感じた)
・これまで好きではなかった分野=金融を学べる(好きな分野は自分で勝手に勉強する)
・スキルとして専門性を身につけられる(計量分析やファイナンスは実務に応用できる)
・経済理論をツールとして使えるようになる(経済学部を卒業するからには…!)
・なるべく多くの分野に応用できる切り口だとベター(社会問題を分析→解決したい)

あと、仮に落ちても吉野ゼミの対策をしておけば、他の試験には十分対応できるのも魅力でした。少なくとも学力試験であれば全ての範囲をカバーするわけなので、あとは面接なりレポートを対策すればいいかなと。

まぁ、いくつか項目を分けて、得点を付けていって最終的に吉野ゼミに決めた感じです。逆に基準から棄却したのは以下の通り。

・ゼミの雰囲気はどうでも良かった(毎年入る人が違う→判断基準としては不安定)
・特定の分野にはこだわらない(物事は繋がっているから興味分野にどこかで繋がる)
・オープンゼミも行かなかった(どこに行っても魅力的に感じるはず→参考にならない)

こんな感じです。何を選ぶかよりも、選んだ先でどうするかの方が重要だと私は考えているので、ゼミ選択の段階では心がまったく動きませんでした。なので、完全にロジックを固めて合理的に行動を選択しましたね。

結局は1人1人の考え方次第です。自分なりに色々と考えて結論を出せばいいんじゃないでしょうか。



続く。
次はゼミ試験についてです。

ゆずたそ流 "吉野ゼミ" 攻略ガイド・上

論文が一区切りついた記念に、ゼミをPRしておこうと思います。
というわけで以下、独断と偏見に基づく吉野ゼミガイドです。

対象:
慶應義塾大学の1-2年生で入ゼミを考えてる方(主に経済学部)

紹介するゼミ:
吉野直行研究会(金融・計量経済・マクロ)
http://seminar.econ.keio.ac.jp/yoshino/indexnew.html



内容  ①どんなことを学んでいるか ← here!!
 ②教授はどんな人か
 ③学生はどんな人たちか
 ④ゼミを決めるにあたって
 ⑤入ゼミ試験に向けて



【1:どんなことを学んでいるか】

●経済指標

いわゆる株価とか為替を分析します。ニュースから経済の動きが分かるようになるので、世の中を見る力を養いたいという方には勉強になるはずです。

例えば、本日11月1日は国内の株価が上がりました。しかし、4-9月期の業績発表では「予想していたよりヤバいっすわ!」という会社が多い。なぜ業績が悪いのに株が上がっているのでしょうか。


答えの1つは、中国経済が回復しているからです(他にも要因はあります)。1日に中国製造業PMIという指標が発表され、経済が改善されつつあることが分かりました。なぜ中国経済の回復によって日本の株価が上がるかと言うと、

①中国と取引している輸出企業の業績がこれから改善していくから
②中国に工場がある企業の業績がこれから改善していくから
③中国への投資が増えて、相対的に日本への投資が減るので、日本円が円高から円安方向に向かうから(円安だと輸出産業の業績が良くなる)

しばしば「中国の経済が熱い!」と言われますが、その一方で、一人っ子政策による少子高齢化問題、地方と都市部の格差、人民元の為替レートといった政治・社会問題も多々あり、経済の失速として現れていたのです。


こういった指標・ニュースから社会を読み解く、というのを、担当を交代しつつ毎週やっています。1つ1つの発表は聴く方も話す方も作業ゲーなんですけど、これをコツコツ続けると自然と力がついていくとか。

というわけで少し前からひっそりと自分でも続けてます→
経済日記 (id:yuzutas0 / @yuzutas0) http://d.hatena.ne.jp/yuzutas0/



●輪読

教科書を輪読します。経済指標や論文に必要な知識を吸収するために、海外の分厚い教科書を、毎週読みます。意外と分量あります。んで、その週の担当者が内容をレジュメにまとめて解説します。

主に「計量経済学」「国際マクロ経済学」「金融論」あたりがメイン。ただし、ミクロ経済学の応用や企業・個人のファイナンス理論も使うので他の授業や自習で補っておいたほうがいいかもしれません。

ちなみに私はこの輪読が一番嫌いです。日本語でポイントだけ解説した参考書で手早く学ぶほうが効率的だと思ってるからです。基礎知識を付けて議論を重ねる→分厚いテキスト、の順序が一番吸収率が良いと思うんですけどね。まぁ、英語に触れる・経済学に触れる絶対量を増やしたい学徒には最高に向いていると思います。やればやるだけ実力が身に付くのは間違いないので。



●サブゼミ

まず、3年前期は計量分析を学生たちだけで勉強します。論文を書くに当たってデータの裏付けが必要となるので、その扱いに慣れるためですね。教授はかなり数字にこだわるので、定量的な視点を獲得したい人にも向いていると思います。

定量的な視点って何ぞや、という方。日本の未来について考えてみて下さい。少子化ですよね、高齢化ですよね、人口は減っていきますよね、税(収入)は下がっていきますよね、社会保障費(出費)は上がっていきますよね、労働者が減るのでGDPも上がる見込みは弱いですよね、となると借金(国債)が増えていきますよね。これ、どうします?

そこで色んなアイデアは出てくると思うんですよ。色んな切り口から問題点も指摘できるでしょう。でも、きちんとした回答に至るにはどこかで「数字」が必要なんですよね。人口はどれくらい変わるのか。税収入は?社会保障費は?国債残高は?GDPは?そういうのを考えるのが定量的な視点です。机上の空論を避けるために数字に基づいた議論をしなければいけないわけです。

私が「数字」の重要性を意識したきっかけは募金です。街頭募金ってあるじゃないですか。あれ、社会に良いイメージありますよね。でも、もし10人のボランティアスタッフが駅前で3時間、募金を集めて11,900円集めたらどうでしょう。これ、その時間にバイトして10人×3h×¥800=24,000円稼いだ方が良いんじゃないか…という考え方もできると思うんですよ。

もちろん、この考え方には異論反論の余地はありますが、その場合でもやっぱりどこかで数字に落とし込まなければいけないはずです。分野を問わず、何か問題を解決したいとき・しっかりと考えたいとには「数字」が必要になってきます。金融は、常に数字を意識しなければならない分野なので、定量的な視点を習得するには恰好の素材と言えるでしょう。



●論文

3年生なら三田論、4年生なら卒業論文、修士なら修論ですかね。それぞれゴールを持った上で、パートに分かれます。それで論文を書くわけなのですが、授業中に時々、教授から課題が投げかけられます。

経済指標・ニュースや輪読の最中に、教授が「いま現実社会でこういう問題があって、この人たちが頭を抱えている」と問題を提起します。そして「どうしたらいいか」と意見を募ることもあれば、「この分析をやってほしい」と投げかけます。


例えば、投資信託がなかなか売れない、という問題。消費者がお金を預けて、運用会社が成功すればその分、預けた人が儲かる仕組みです。消費者はリスク最小・リターン最高にしたい。運用会社は運用に失敗すれば損をする。その一方で、消費者に金融商品を売り込む中間業者は投資の成功失敗に関係なく手数料を獲得する、という構造になっています。

するとどうなるか。中間業者は投資の結果でダメージを受けないので質の悪い商品を売る可能性が出てくる(少なくとも消費者はそう思ってしまう)。では、どこをどう変えたら解決するか?

答えを考えるには、この3人の登場人物(消費者、運用会社、中間業者)それぞれが効用最大化となる行動を取る構造をミクロ経済学のモデルに落とし込みます。その上で、数式をどう変化させたら上手く回るのかを考えなければいけません。


こういう分析を唐突に投げかけられます。世の中の問題は山積みなので、次々に課題が提示されます。やればやるだけ勉強になるので、せっかくの大学生活なのだからしっかりと学習したい!という方には最高の環境ではないでしょうか〜。




大体こんな感じのことをやっております。

金融をテーマにして、常に「現実で何が起きているのか」「その原因は何なのか」「どうやって対処すれば良いのか」を考えさせられる研究会なのです。問題を分析・解決できる人間になる訓練が詰まっていますね。

他にも、経済学検定試験(ERE)や政策提言コンテスト(ISFJ)に参加して、チーム対抗戦みたいなことをやったり。教授が主催する国際会議にお邪魔させていただいたり。飲み会、バーベキュー、カラオケ、ソフトボール大会、テニス、レンタカーで遠出、誕生日パーティー、動物園などリア充っぽいことも。

ここに挙げたのは一例に過ぎません。どこのゼミにも言えることだと思いますが、自分たちの工夫次第でいくらでも面白いことができます。


続く。