対象:
日本の寄付問題に関心のある方
ファイナンスの学習者
主張:
政府や金融によるソリューションを推進すべきではないか。
注意点:
私個人の見解であり、所属する組織・団体とは無関係です。
経済用語が多用されているため読みにくいかもしれません。
(c) .foto project
先日、某ベトナム料理屋でWWF(世界自然保護基金)、ESD-J(「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議)のインターン生たちと「日本の寄付文化」について議論しました。曰く、外国に比べて日本では寄付が活発ではない、とのこと。そこで少し考えたことをまとめてみました。
【1:寄付問題とは何か 】
そもそもの発端がこちら
>『会員が少ない ― 欧米から問われること』(WWFジャパン):環境goo
http://eco.goo.ne.jp/work/npo/vol08/02.html
要約すると
1:世界自然保護基金(WWF)では会員になることで定期的に寄付を行う
2:日本では2005年度末の時点で会員数が2万人(国内では大規模)
3:カナダでは会員数が5万人(人口は日本の1/4)
4:世界と比べて日本では寄付文化が未熟・市場が無い
とのこと。
そこで、日本に寄付文化を根付かせるにはどうしたらいいだろう?という話になったわけです。んでんで思考アプローチの手法としては2通りあるんじゃないかなーと思います。
1つは「文化を根付かせる」→「啓発しよう!」という王道手法。
2つは「なぜ個人は寄付しないのか?」→「経済的枠組みで考えよう!」という手法。
【2:啓発について】
まず、前者について。「皆が寄付するように啓発しよう!」ってことで、様々な団体が様々な取り組みをしていますよね。少しずつでもその量・質をアップグレードしていくことで、徐々に浸透していくはずです。
ここで、対象として「社会貢献に積極的な上位20%」「興味はなくもないけど積極的ではない60%」「全く興味ない下位20%」の人々を仮定してみます。上位群は自主的に調べているので、何らかの企画を打てば反応してくれる。この生命線をコンスタントに獲得するのが既存の取り組みの大事なところ。
当然ながら下位20%は何をやっても反応しない。というわけで、真ん中の60%をいかに巻き込むかが今後の課題ではないかなーと思っています。いわゆるチャリティーイベントがその代表例でしょうか。飲み会に参加するだけで参加費の一部が途上国に!みたいな。
ただ、理想としては下位20%が募金してもおかしくない仕組みを作ることですよね。例えば、空港に募金箱を置くことで、両替できない小さな外国貨幣を「持っていても仕方ないか」と募金する。邪魔な小銭を片付けられるので、むしろ効用プラスかもしれない。
こういう考え方に基づいた取り組みは、色々とアイデアは出てくるでしょうし、やりがいもありそうです。今後さらに盛り上がっていくんじゃないでしょうかね。手前味噌ですが私が台湾で先日行ったプレゼンテーションでも、この「積極的ではない人を募金に巻き込むビジネス」を提案させていただきました。絶対面白いと思うんですよね。
【3:経済的インセンティブについて】
次に、後者について。「なぜ個人は寄付しないのか?」を日本の経済から考えてみたいと思います。
前提として、満足感購買説(寄付を行う理由=「自分は社会貢献に関わっているんだ」という満足感を買っている)という考え方は置いておきます。これは啓発の議題に対応するからです。また、計測も困難です。
なので、もう1つの理由=「寄付控除や企業のイメージアップに繋がる」という点、つまり経済的なインセンティブの観点を考えてみたいと思います。(ここでは企業ではなく個人の話を念頭においているのでイメージアップ云々は当てはまりませんが)
※日本でも認定NPOへの寄付控除があるので、
知らなかった人はこの機に覚えておいて下さい。
寄付控除とは?:税金基礎知識
http://www.taxguide.jp/contribution/
寄付金控除を受けるには|寄付サイトGiveOne(ギブワン)
http://www.giveone.net/cp/pg/article/TaxPage.aspx
ここで私が言いたいのは、単なる善意だけではなく「経済的な性質を持つことでマーケットが生じている」という側面が事実としてある、ということです。んで、経済という側面から募金を考えると、「カナダが日本よりも寄付が活発」な理由が見えてきます。
【4:なぜカナダの募金が活発なのか】
①1人当たりGDPが、日本<カナダ
WWFの記事に合わせて、2005年の国民1人当たりGDP(購買力平価で換算)を見ると、日本 30.773ポイント に比べて、カナダ 34.091ポイント とやや高くなっています。
[PDF注意]国際比較で見る1世帯当たりの資産と負債
http://www.nli-research.co.jp/report/econo_report/2007/ke0706.pdf
※ちなみに最近だとこんな記事も。
→カナダの平均世帯収入がアメリカを上回る:シングルマザーMBA留学&起業 in バンクーバー
http://ameblo.jp/shinecanada/entry-11318236044.html
ただ、「決定的な差ではない」「購買力平価説に対する反論もある」「平均ではなく中央値を使うべき」「GDPではなく可処分所得を用いるべき」「単年度のデータだけでは立証できない」とツッコミどころ満載なんですよね。すぐにデータが見つからない+加工するの面倒なので勘弁してね。
いずれにせよ、GDP世界3位・人口がカナダの4倍(1億2000万人)の国家レベルだからと言って、必ずしも個人が募金しやすい状況かというとそうではないと思うんですよ。だから、外国と比較して嘆く、というのはどうなのかなーと思っています。
ついでに言うと、消費税はともかく、日本は多種多様で豊富な税金で所得を減らされるわけで。GDPの多くが企業の自己資本に行ってしまうわけで。資金循環が貯蓄→銀行→国債に集中して経済成長の見通しが悪いわけで。その一方で、政府のODAは大きいわけで。ホットな話題を挙げれば世界銀行への拠出額は2位なわけで(*IMF世銀総会の前週にこの文章を書きました)。むしろこれで会員2万人はすごいんじゃ…。
まぁ、それはカナダも同じか。物価は商品ごとに結構違うようですし、仕事環境も色々と違ったりするようです。本格的に分析するなら、どういう変数を選んで比較するのがベストなんでしょうね。
海外生活の現実 カナダの良いところ
http://kaigailife.blog94.fc2.com/?mode=m&no=16
海外生活の現実 日本とカナダ 会社員の違い
http://kaigailife.blog94.fc2.com/blog-entry-25.html
カナダの経済 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88
②日本=個人が金を貯蓄に回すシステム
自分である程度稼いでいる方で、資産や節税に関心のある方なら、さきほどの寄付控除に興味を持っていただけたと思います。ですが知らない方も多かったのではないでしょうか。そもそも資産についてあまり考えていないんじゃないかと思うのです。
コンビニで飲み物を買うようには募金できない理由がここにあります。つまり、財・サービスを獲得する手段としての「消費行動」(B/Sの変化)に対して、資産そのもの・お金そのものへの扱い(P/Lの変化)があまり意識されていないのではないか、ということです。「お金」について考える機会が少ないから、必然的に寄付というある種ファイナンス的な行為が疎遠なのかなと。
ちなみに、個人金融資産の内訳国際比較を見ると、日本は貯蓄56%でカナダは27%と倍近い差があるようです。また、日本だと1000万円を超えた分を現金・貯金以外に変える(他の資産に変えることで節税する)特徴があるので、ほとんどの人は貯蓄+保険/年金だと考えていいでしょう。
世界の個人金融資産の内訳比較
※日本とカナダでデータ年度違うからそこまで信用しない方がいいかも
http://rh-guide.com/data/kojin_sisan_hikakuworld.html
日本人の資産についてはこちら。
※読んだの2年前だからあやふやだけど確かこの本です。
『交響する社会―「自律と調和」の政治経済学』
つまり、日本人はそもそも「お金=生活費+趣味その他+将来のために貯蓄しておくもの」っていう考え方なのではないか!「寄付文化がない」という言葉はそこに帰結しうるのではないか!という意見です。社会貢献な方々は寄付しないと嘆いて、経済な方々は投資しないと嘆いてますし。貨幣貯蓄が全資産の50%を超えているの主要先進国で日本だけですからね。
原因を挙げるとすれば、20年前のバブル崩壊で株・土地に対してマイナスイメージが定着したこと、高利率での貯金→財政→公共事業という強力な仕組みがあったことではないでしょうか。あと、資産運用や投資信託が悪いイメージを持っていますよね。blogで資産運用というキーワードを使うと怪しさ満点ですからね。日本人はリスクを徹底的に回避してますね。セーフティネットがないと指摘されていますからね。
でも日本に限らず、リーマンショック以降は世界的に安全資産に逃避する傾向はあるんですよね。なので、最近のカナダのDonation事情に何か変化があるのか見てみたいところです。それとも文化・傾向を無視するくらいの税制が整っているのかな。
【5:まとめ 】
以上のように、経済構造から寄付問題を分析すると、
・個人の手元に寄付するだけのお金があるのか?問題
・個人がお金を購買以外に使う環境が整っているのか?問題
に大別されます。
だって、宝くじで3億円が当たって調子に乗ってるとしましょう。そんな時に、可愛い女の子が「募金して下さい!」って言ってきたらどうしますか。男なら札束を募金箱にぶち込みますよ、ええ。つまり、手元にお金があれば寄付するんです。
んでんで、宝くじはほとんどが税金で取られるという話を聞きますけど、仮に一部を寄付したほうが税金で取られる金額よりも低く抑えられるのであれば、9割以上の方は寄付を選びますよね。お金を寄付に回す環境(=市場や社会制度)が整っていれば、人々は選択できるんです。
では、どう解決したらいいか。
1:個人の手元に寄付するだけのお金があるのか?問題
=雇用・賃金問題。まさに世界共通の課題です。
=日本については投資活性化・成長戦略を進めるしかないのかなと思っております。
2:個人がお金を購買以外に使う環境が整っているのか?問題
=今後「ファイナンス×社会貢献」の取り組みが盛り上がっていきそうです。
=少なくとも「寄付」については市場が拡大していくんじゃないですかね。
酒造ファンドとか環境ファンドとか、被災地支援の基金とか色々ありますからね。まだまだニッチな分野もあるはずなので、むしろどんどん立ち上げる勢いでいたいですね。アイデア次第で色々と出来るのではないでしょうか。
後半やや説明が長くなりましたが、これを読んで
「社会貢献って大事!」
「私は自然が好きなだけです!お金の話はするな!」
「政府の役割とかwww 興w味wなwいwかwらw」
と言ってる方々に、政策とか金融という観点も実は大切なんだよー、ってことを少しでも感じていただければと思います。
続く。
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