2012/11/28

災害金融を再考する。


先日、大和証券で行われたカンファレンス『インパクト・インベストメントフォーラム』に参加してきました。副題は、国際協力で実現するあなたと世界の絆 〜地球規模の課題に対する社会貢献の在り方とは〜。

国際協力機構(JICA)が第2回JICA債券を発行するに当たり、投資家に向けて社会貢献の意義を発信することで資金提供の理解を促すことを目的としたプログラムでした。参加者の大多数が70代以上の方々だったと記憶しています。後半では、東日本大震災を初め、世界規模での災害と金融の在り方について議論が行われました。

登壇者は、田中明彦氏(JICA理事長)、小寺清氏(JICA理事)、向殿政男氏(明示大学教授:安全学)、長友紀枝氏(認定NPO法人 難民を助ける会 理事長)。モデレーターはショーン・マクアードル川上氏(経営コンサルタント)。以下、議論内容に独自の補足を加えた忘備録を残しておきます。



●社会貢献ファンドの意義

政策論として、JICAから途上国への融資には「マーケットの安定を促す」という意義があるとの主張がなされた。

例1:タイやマレーシア。長年の支援の結果、途上国から新興国に、貧困層から中間層へと成長しつつある。その結果、市場開拓が可能となる(BOP - Base of the Pyramid)。さらに、20-30年後には融資に対して巨額の返済を見込める。

なお、日本企業が海外進出を検討する際に、JICAが支援してきた国が投資先に選ばれやすい。これを選定効果と呼び、海外投資を導く役割が可視化されている。現地から日本企業への信頼を獲得しやすいことと、JICAが独自に対象国の市場情報を公開していることも理由の1つであろう。

例2:ブラジル。支援によってアマゾン南部の不毛な土地を、世界第二位の穀物生産地に変えた。その結果、干ばつで北米での生産が大きく減少した時には、これまでは食糧価格が高騰していたが、今年はブラジルが第2供給者として控えいたために上値を抑えることができた。

日本は四代穀物のうち小麦・トウモロコシ・大豆をほぼ全て輸入に頼っているため、食糧価格が極端に上昇してしまうとマクロ経済に負の影響を与えてしまう(Y = C + I + G + EX - IM)。経済貢献としての意義はけして小さくない。

例3:フィリピン。JICAは政府と反政府勢力の仲介役を努めた。東南アジア主要国の1つであるマーケットが過度の政治リスクに晒されることを回避することに成功し、日本企業が活躍する土台を作ることができた。

ただ、いずれの例であっても、便益を享受するのは日本企業だけではない。他の外資企業のフリーライダー的な行動を想定し、途上国融資が相対的に損失であることを根拠とした批判の声も大きい。

したがって「その国の人に役立っているか」を追求した支援が「日本人の役に立っているか」という政治的課題に繋がり、なおかつ長期的にはペイできることを十分に検証した上で融資を行わなければならない。社会貢献ファンドの意義と課題は以上の通りである。



●Disaster Finance(災害金融)の課題

特に東日本大震災以降、経済と災害に関する議論が活性化している。しかし、現在の日本が復興するためにどのような措置が必要かというものが中心であり、もう1度災害が来たときに、以前よりも被害を抑えられるのか?より良い復興をスムーズに行えるのか?という点でやや疑問が残る。

後回しにされがちなテーマではあるが、災害金融の制度枠組みを分析することが必要であり、その前段階として課題を洗い出すことが重要な作業だと言えよう。


1:災害のグローバル化。タイの洪水で日本の電化製品販売が被害を受けたように、経済のグローバル化と連動する形で災害も国境を越える。同様に、災害対策も一国内で完結するものではない。

自国の災害→他国から円滑な支援を受けられるように国際的な信頼を獲得しておく必要がある。他国の災害→日本企業の業務に対するマイナス影響を最小化できるよう当該国への素早く適切な支援を実施する必要がある。


2:リスク分散化。脱原発の議論に見られるように、とかくリスクゼロを目指す論調が強くなりがちである。しかし、1つのリスクを抑えれば必ず他のリスクが大きくなる。例えば、ドイツでは自然エネルギー政策に集中投資しているが、利用電力の半分以上は輸入頼みである。

基本的にリスクはゼロワンではない。他国からの電力輸入が経済に与える影響・不安、他国での発電が自然・人体に与える影響、こういったリスクに振り替えているだけなら何ら解決になっていない。ここで求められているのは、リスク分散に基づいた最適なポートフォリオ選択と、何よりも人々の理解であろう。


3:社会的弱者。一般に、自然災害による被害は高齢者・障碍者の方が大きい傾向がある。東日本大震災で亡くなった方の70-80%は高齢者であり、また、障碍者は健常者に比べて人口当たりの死者比率が2倍以上。なお、被害には地域差があり、その要因解明が社会的弱者を災害から守る鍵になりそうだが、十分な研究は成されていない。


4:コーディネーターの重要性。同じ場所に同じような団体が集中する「支援の重複」を避けて、効率的な配分を行うことが3.11の課題の1つだった。情報・技術・金・人・時間といった資源を、包括的に管理して分野別に活用するのである。

現場の人材という意味では、法律学習の重要性を再認識する機会が多いようだ。緊急時にも関わらず、個人情報保護法があるために障碍者の情報を支援団体に提供できなかった事例が挙げられた。法律をどう利用し、どう変えるべきか、という視点が不可欠である。


5:選択的利他性。企業を対象とした経営学での研究によると、人間は「利他的に動く人」に対して利他的に動く傾向がある。そして、全員が利己的に動く組織に比べて、全員が全体利益を意識して行動する場合は約1.65-1.7倍の効率を得られる。

これを政府・世界レベルに拡大した取り組みが必要なのは自明だ。特に日本人は震災直後の協調的な振る舞いに国際的評価を受けているため、災害に対する姿勢・対処を発信するリーダー的役割が求められていると言えよう。


6:予防の評価。米国での試算によると1ドルの事前投資で、災害時に4-7ドルの費用軽減を実現できると言う。しかし、事業仕分けでスーパー堤防が切られたように、100年に1度のハザードに対して今あなたが投資できるか?と問われると迷いが生じるのである。

事後対処に比べて予防の価値は見えにくい。フィリピンの紛争も、予防に成功してしまったら「予防努力」は可視化されない。紛争が起きて初めてその価値に気付ける。自然システムを巡る環境経済学の典型的な議論と同じだ。森林の保水効果は失って初めて気付く。今回の震災も、復興には多くの人が関わっているが、防災は誰が何を担うのかさえ未定だ。

この問題を考えるには機会費用の概念が不可欠であり、予防行為に適切なインセンティブを設けるべきだ。JICAではまだ価格評価制度を確立できていないとのこと。なお、国際協力における災害予防は、ハザードマップや防災セミナー、耐震工事に関するKnowledgeの共有が例として挙げられる。

⇒参考?:地震保険研究No4『巨大災害リスクに関する研究』
http://www.nliro.or.jp/disclosure/q_kenkyu/No04_B.pdf



●予防評価に関する議論

アジア開発銀行では災害による被害額として538億ドルを推計している。これを1/4〜1/7で割った値が、必要な予防額と考えることもできる。すなわちアジア圏で80-140億ドルを出資できれば良い。あくまでもマクロな枠組みでの議論になるが、日本の公共投資の数%程度の金額であり、拠出は十分に現実的だと言える。

ただ、この被害額はあくまでも産業資本と産業連関に基づいたものに過ぎないという指摘がある。震災で亡くなった人、健康を損ねた人のような「人的資本」あるいは森林や海のような「環境資本」といった拡張会計の議論は無視されている。また、将来得るはずだった利益が消失したため、将来世代の負担・機会費用を換算する必要もある。

いずれにせよ、対災害用プール金を設ける意義は大きい。しかし、民間企業にとっては損害保険・引当金に相当する=負債・費用扱いとなるため「必要なのは分かるけど他の企業がやってくれたら嬉しい」という立場に帰結する。

こうした状況を改善するために政策金融ではいくつか施策を行っている。例えば、日本政策投資銀行は、独自の防災基準を満たす建物に対して貸出金利を低下させる仕組みを設けている。ただ、民間金融機関への圧迫が懸念されることもあり、手放しでは喜べないだろう。


※ODAの特殊性。グラント・エレメント(贈与の度合い)という指標を判断基準に用いており、25%以上でODAとして認められる。融資について、割引率10%+返済金額なしの条件化で現在割引価値に換算。融資条件が厳しいほど値は小さくなる。つまり、ODAは融資条件が緩いほどより良いという判断になる。



以上、カンファレンスで行われた議論をまとめました。

ソーシャル・ファイナンス(Social Finance)とでも言うべきでしょうか、この分野は実務上の必要性が大きいにも関わらず、まだまだ議論が不十分なようです。参考資料も豊富ではないと思うので、まぁマイナーな分野ではありますが、情報を共有しようと思った次第であります。

終わり。

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