しばしば「学生はもっと勉強しろ!」という言説を耳にする。
その意見自体はおそらく正しいだろう。1人1人の努力が重要なのも事実だ。
だけど、学び舎である大学の環境を改善することもまた重要ではないだろうか。
新入生の相談に乗っていて、そんなことを思った。
彼女の言葉を借りれば「やる気が萎えてしまう」のだ。
そこで今日は、大学に潜むモチベーション・デストロイヤーたちを紹介しよう。
1:取りたい授業が取れない
途上国の貧困問題に興味のある学生A君が、経済学部に入学した。
彼はもちろん「開発経済学」や「アフリカ社会論」を履修したい。
さらに、国連への就職を意識して「アラビア語」も履修したい。
また、国際社会で活躍する社会人が講演する特別科目も受けてみたい。
しかしッ!!
取れないッ!!
なんということだ!!
開発経済学は…今年は開講しない!!
アフリカ社会論は…別の科目「貧困論」と時間がかぶる!!
アラビア語は…語学の履修上限に引っかかってしまう!!
特別科目は…抽選で落ちてしまった!!
よくある話だ。程よく単位を取得したい学生にとっては重要なことではない。
始めから大学に期待せず自習できる学生にとっても重要なことではない。
しかし、夢を持って大学の授業に期待を寄せていた学生にとってはどうだろう?
2:説明が分かりにくい
その分野で第一人者の教授。
その分野に興味があって予習も万全な学徒は、教授の話に感銘を受けるだろう。
要領が良くてポイントを読み取れる学生は、試験に出る重要個所をメモするだろう。
しかしッ!!
分からないッ!!
なんということだ!!
多くの学生は「教授が何を言っているのか」分からない!!
本筋から逸れた例外の話なのか、それともここも試験に出るのか!?
理論の計算をやっていたはずなのに、突然歴史的経緯を話しだしたのはなぜ!?
専門用語を知っていて当然だという説教ばかりで用語自体の意味は何!?
とにもかくにも説明が分かりにくい。
専門家が語るよりも、上級生に解説させた方が分かりやすいことの方が多い。
専門家には研究のために時間を費やしてもらう方が社会にとっても良い。
3:テキストが分かりにくい
たとえ教授の説明が分かりにくかったとしても…。
教科書が、そう、教科書がありさえすれば何とかなる。
分からなかった部分を調べることができる。これで良かった。解決だ。
しかしッ!!
値段が高いッ!!
分かりにくいッ!!
丁寧で論理的な学術書が山ほどあるにも関わらず、
教授がテキストに指定した書籍は…
なんと、その章の最後まで結論が分からず、
なんと、論旨について筋道立てた説明がなされず、
なんと、6章で解説される専門用語を3章で断りなしに使いだし、
なんと、異論がある◯◯学派といった体系を当然のように使っており、
なんと、明らかに議論の本筋から逸れる知識自慢が披露され、
なんと、「この研究は実用化されていない」と言うのに婉曲的な表現で10行も費やす。
公共選択論のテキスト、てめぇのことだよ。
ケインズやマルクスより読みにくいってどういうことやねん。
かなり細かい分野になってしまうと代替テキストも簡単には見つからないという悲劇。
4:席が取れない
電車が遅延⇒教室に遅れて入る⇒友達が席を取っているか?
Yes⇒OK。
No⇒空いている席は見つかるか?
Yes⇒申し訳ない気持ちになりながら無理に通してもらう。
No⇒立ち聞きは可能か?
Yes⇒立ち聞き
No⇒教室を出る
そう…席が取れないのである。
履修者の数<教室の席数 となるように調整されている。それは事実。
しかしッ!!
席が狭いッ!!
明らかに1人毎に割り当てられたスペースが狭すぎる!!
冬場のコート、分厚い教科書や部活の道具が入った大きな荷物。
使う!!どう考えても!!隣の席も使う!!
つまり、履修者の数 < 教室の席数 < 履修者の数×2 になってしまう。
大学を「授業料による収入」と「設備投資による費用」だけで考えれば効率的だ。
しかし、「1人1人が授業に集中できる環境」という観点から見たら最悪だ。
これは図書館やPCルーム、食堂などでも同じことが言える。
5:図書館が24時間空いていない
自宅から2時間掛けて毎日通う学生B。
彼は朝9時の授業に遅刻しないよう早めに家を出ていた。
1本後の電車に乗ると授業には間に合わない。
しかし、いつもの電車だと到着時間には図書館さえも空いていない。
大学の近くにあるカフェは通勤前のサラリーマンで満員だ。
逆のケースもある。
コツコツ勉強するのは苦手だが、一度集中するとのめり込むC君。
授業の内容がいまいち理解できないので図書館で教科書を読む。
指定テキストは借りられない規則なのでここで読むしかない。
アメリカの例が多いものの、丁寧な説明に納得していく。
ようやく、現実社会と理論の繋がりが見えて来た。
さぁここから面白くなってくるぞ!
…というときに閉館時間が来てしまう。
などなど。
図書館が24時間空いていない時点で、少なくとも大学は、
学生に「いつでも勉強できる環境を与える」努力を放棄した、
と言われても仕方がないのではないか。
6:家や活動エリアから遠い
通学に片道1時間以上も費やす。
あるいはサークルの練習場所まで1時間も必要とする。
移動だけで2h×週5日×25週/年=250時間も失っている。
さぁ、例えばここで、大学から徒歩2分の大きな学生寮があったとしよう。
その大学に通う学生は、そうでない学生に比べて250時間多く学習に費やせる。
全10章で構成される学術書を1章読むのに2時間必要だとするとどうか。
1年間で250÷(10×2)=12.5冊も多く読むことができる。
1分野毎に参考書が2冊だとしたら、6分野も多くマスターできることになる。
え?学生寮の工事や家賃にお金がかかるって?
それは大丈夫。日本の教育の未来を憂いている人たちが山ほどいるから。
頼まれてもいないのに「学生はもっと勉強しろ」と主張するほど熱心な人たちだ。
きっとこれくらいのお金は出資してくれるはず。
7:どんな授業か取るまで分からない
素晴らしい先生は、事前に適切な情報提供を行っている。
出席、レポート、試験に対する比重や、使用テキストについて。
さらに自身のHPで過去の試験問題や、受講生のコメントを載せている。
実際に履修したときのことを十分にイメージできる。
しかし、そうでない場合も多い。
だから結局は、先輩・友人・ネットの書き込みなどを参考にする。
表面的な情報しか掲載されていない履修案内は役に立たない。
糞を拭けない分、トイレットペーパー以下だ。
そのくせ、やっぱりこの授業は自分には合わない、と分かった頃にはもう手遅れ。
履修登録を変更できなかったりする。
8:講師との相性に依存しすぎる
悲しいことに「興味のある内容」と「自分に合う授業形式」とは必ずしも一致しない。
途上国の問題に興味があって、たびたび現地を視察しているA君。
インターン先のNPOは、飛行機チケットの安い6月に大きな活動を行う。
しかし、開発経済学の授業では出席に対する比重が大きすぎる!!
試験一発勝負なら自信はある。
東進みたいなビデオ授業で、自主的に進められるなら5月中に学習範囲を修了できる。
レポートの比重が大きいなら、自分ならではのものを書き上げる。
なのに、この講師の授業スタイルではそれができない。
この大学のシステムではそれができない。
別の例で言えば、論旨を把握したのに、細かい語句暗記ばかり試験に出す教授。
「結局何が言いたいかよく分からない」状態の生徒は満点。
完璧に理屈を解説できて、普段の生活に応用できる生徒は、ど忘れで赤点ギリギリ。
マジメに勉強するのがバカらしくなる。
あるいは、勉強できる気でいた人が、全国共通の試験でぼろぼろだったりする。
成績の付け方や学び方に統一感がないことのデメリットが目立つ。
とにかくですね、
近くの寮から通いやすくて、24時間施設を利用できて、それもきちんと人数分確保されていることが前提。というか運動から食事までありとあらゆる生活インフラを整えてほしいよね。
さらに、単位の履修上限を解除して、授業バッティング回避のために東進のようなビデオ授業・Z会のような通信講座も併用可能。本気でやれば1週間でマスターできる科目(簿記の2−3級レベルなど)については1週間で全て学習する「先取り」も許可する。
授業の情報は詳細まで平等にアクセス可能。過去の試験問題で腕試しできるのはもちろんのこと、単位取得者の割合や成績の分布といった統計情報も公開。良い成績を取った人のコメントだけだとか、特定のWebサービスを利用している人だけといった極度に偏った情報は、トイレットペーパー以下の価値しかない。
分かりにくい授業については上級生・院生が講師を担ったりテキストを開発することで自分たちの学習の場・実績にも繋がるようにする。基礎的な科目については全国共通のテキスト・試験・成績基準。高校までの教科書は質が高いから同じレベルを期待できる。
その教授ならではの特殊な科目(レポート内容がそのまま政策の参考意見になったり、教授からボコボコにされる少人数のゼミだったり)の場合だけ、専門家として教授に腕を振るってもらう。
これ!!これでどうよ!?
こんだけやれば流石にモチベーション上昇⇒学力上昇に繋がるでしょ!!
いやさ、学生生活に酒と麻雀とセックスだけしか期待していない人には意味ないですよ?
でもでも、何かしら興味があれば必ず大学の授業と結びつくはずなんですよ。
だとしたら、そこで障害となるものを取り除いてやれば、必ず学力は上がるはず。
でさ、そうやって自分の関心テーマを一生懸命勉強した人ってのは強いですよ。
志望業種に就けば活躍するだろうし、研究者としても優秀でしょう。
時間をコントロールしやすい環境なら、事業を起こすことだって容易になる。
何より、人生を楽しめる。
…という呟き。
※2012.04.14追記:コメントをまとめました。
http://togetter.com/li/487953
※2012.04.16追記:コメント返し
http://yuzutas0.blogspot.jp/2013/04/re.html
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