FacebookでシェアされたURLで「学生の起業ハードルを下げる」的な企画が紹介されていた。そこでは、①創業のための資金調達が難しいことと、②エンジニアの確保が難しいこと、の2つの理由から学生起業は困難だと主張されていた。だからマッチングすればいいんじゃないか?的なアイデアだった。
これはちょっと違うんじゃないかなと思いました。
私の背景としては、在学中に成り行きで会社を創業して、でもあんまり上手く行かなくて、株式を別の人に渡して、とりあえず自分が立て替えていた創業費用などは何とか回収できました、という残念具合なのですが、一応、法人設立がどんなものか、というのは自分の目で見ました。あと、他の人の事業立ち上げを手伝った経験がいくつかあるので、1つの視点は提供できるかと思います。
んで、学生起業のハードルが高いか、と問われると、そんなことなくね?と思ってしまうのです。ただ、実際に会社を作るまでは、勝手がよく分からないので、心理的にハードルが高い、というのはあると思います。少なくとも上記2点の問題ではない。
まず、資金調達に関して。
創業自体に30万円くらい、赤字でも毎年の税金に10万円くらい掛かるので、これらが最低ラインで必要。
住所登録にオフィスを借りる必要がある場合、大学のインキュベーションセンターに相談したり、起業家支援の活動をしているシェアオフィスを借りればかなり安価に押さえられる。それが無理でも住所だけ格安で使わせてくれるサービスがあったりする。
エンジニアの話が出ているので、Webアプリやスマホアプリを作る、という状況を想定するとサーバを借りたりドメインを取得したりAppStoreに登録したりといった諸費用も掛かるけど、最小容量に押さえれば、総額で1〜3万円くらいのはず。
これらの最小経費とは別に、リーンスタートアップ(プロダクト・マーケット・フィット前)の検証と、グロースハック(プロダクト・マーケット・フィット後)に費用がかかるわけですが、ここでの金額はラウンド毎にピンキリだと思われます。
例外的に、生活費・学費を稼がなくてはいけない=人件費をカウントすることになる場合は、一気に必要資金が増えますが、これは置いておきます。結構重要な論点だと思ってますが。
んで、
・そもそも法人設立をしなくてもいいケース(数万円=バイトで良くね?)
・法人設立をするけど追加費用は少ないケース(50万円弱=起業支援プログラムやコンテスト賞金で十分に確保できる)
・法人設立をした上で追加費用が多いケース(数百万円=最近国内でも増加しているシードアクセラレーターを活用すればOK)
・既に初期の検証は終わっていて成長段階に入るケース(上限なし=シードではなく大型のVC出資を受ける)
という感じになります。だから、起業支援プログラムが増えること自体は悪くないのかなとは思います。
理想は、アルバイトで最小費用を稼ぎつつスキルを身につけた上で、最小費用を使いながら、少人数のターゲットを対象として、事業アイデアの各要素(顧客・課題・収益構造など)を検証していき、その過程でプロダクトをブラッシュアップしていき、規模拡大ステージに入るタイミングでベンチャーキャピタルから出資を得る、という感じかと。
初期段階での資金調達のマイナス点を挙げると、余計な報告業務が増えたり、意思決定プロセスが複雑化してしまって、リーンスタートアップの検証サイクルを減速する恐れがあるとの指摘もあり、個人的な実感としてはこの意見に賛成です。
ただ、ビジネス要素の1つであるチャネルを確保する手段としてVCを活用する戦略は有効だと思っていて、その場合はシード段階での資金調達はアリかなと。いずれにせよ重要なのは事業の進展であって、資金調達のウエイトは初期段階では低いはず。でないと資金繰りに意識を取られて本末転倒なことになるなぁーと。
ここいらの議論は以下の書籍を踏まえると良いと思います。
・『リーン・スタートアップ』:新規事業の立ち上げが失敗するのは不確実性を最小化しないから。つまり、顧客や課題や解決案や収益モデルを1つ1つ検証して不確実性を最小化することで成功できるビジネスへと到達できるよ!的な。
・『Running Lean』:具体的にビジネスの各要素をリーンキャンバスという図にまとめて、それを1つ1つ検証していく実例を紹介するよ!大したお金を掛けずにここまで検証できるんだぜ!的な。
・『グロースハッカー』:検証が終わった後の成長段階では、高額なプロモーションをやればいいってわけじゃないぜ!お金を掛けずにきちんとした工夫をすることで顧客をたくさん獲得できることを説明するよ!的な。
・『スタートアップ・マニュアル』:検証の段階では、資金の減少スピードだけ注意すれば良いよ!お金がなくなる前に検証を終えることができれば、成長段階のビジネスには次のラウンドの資金調達があるじゃないか!的な。
・『小さなチーム、大きな仕事』:そもそも会社を作ったり資金調達しても余計な業務が増えるだけだから、とりあえず今できる範囲でやった方が良いよ!上手くいきそうだったらいくらでも会社設立や資金調達の話は出てくるでしょ!的な。
※リーンキャンバス(LeanCanvas)の画像 => http://perth.startupweekend.org/files/2012/09/Lean-Canvas.png
次に、エンジニアに関して。
自分でやるパターンと他の人を誘うパターンがある。理想は前者。
・ビジネスのスピード感として、トラブル時にすぐ対応する必要があったり、ちょっとした検証を自分で行えるほうが、何かと都合が良い。そう上手く長期で深くコミットしてくれる人を見つけるのは難しい。
・サービスへの思いが強い人が直接サービスを開発すると、仕事を投げられた人間が作るよりも、細部がしっかりする…気がする。ここはチームの体制によりけりだけど。
・開発者のコミュニティと縁を作りやすいので、別の技術者を見つけやすかったり、技術者が働きやすい環境を作れる。(私はこの実感がないけど、本当にコードを書いたことさえない人に比べると結構恵まれてるのかなと思う点はある)
他の人を誘う場合、CTOとして完全に任せられるだけの技術があり、かつ深い関係性を築かなければならないけど、それだけ優秀な人はなかなか捕まらないという問題がある。
例外としては、お金を払って雇う場合だったり(資金調達の問題がここで打撃)、その道60年のおじいちゃんが立ち上がって業界を変える…レベルのインパクトだったり(それだけのリソースを持つ学生は少ない)、そういう場合だったら手を差し伸べる人もいるだろうけれども。
とりあえず自分でやってみて、勉強会にも顔を出したりして、分からない部分を聞きながら、面白そうだと思ってもらえるくらいの成果を出していって、途中合流していただくのが最良な気がします。大学の起業支援団体に問い合わせれば相談相手としての技術者は紹介してもらえたりします。
ここいらの話は以下の書籍/サイトで勉強してから考えれば良いのではないでしょうか。
・『ドットインストール』:だいたい揃ってる。
・『Rails Girl』:短時間で成果物を作ってやる気を出す。
・『Rails Tutorial』:RailsでTwitterを作ってみて、その過程で色々学ぶ。
・『プロになるためのWeb技術入門』:座学用。体系的に知識を学べる。
Rails推しなのは、開発フレームワークとベストプラクティスが明確だから。いきなり他の言語だと初心者には選択肢が多すぎる気がします。でも、ごめんなさい。正直エンジニア問題は私も情報不足です。アップデートできるよう励みます。
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[2014.05.03 追記]
この点について、参考になりそうな記事がありました。
・非エンジニアの起業家が最初のエンジニアを採用出来ない理由
http://tech.blog.hisaju.org/2014/04/10/startup/
・エンジニア「で、あなたは何が出来るの?」
http://anond.hatelabo.jp/20140410160246
「自分が参与すれば確実に成功する」とエンジニアが思えるだけの準備ができていない、そういう意味で魅力のない案件だから、技術者を捕まえることができていない、という指摘。
私が上で述べたように「面白そうだと思ってもらえるくらいの成果を出」すことが、やはり大事なのではないかと思います。
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結論としては、少しアルバイトしてお金を貯めれば、会社設立自体は何の問題もなくできるわけですよ。問題はその先で、ベンチャーキャピタルが出資したくなるような、優秀なエンジニアが参与したくなるような、そこまでの成長段階に漕ぎ着けられるかって部分が重要なのだと思います。
そのためには、(少額資金+自分の小さなスキルで十分な程度の)小規模な範囲で、不確実性を最小化するスタートアップの戦い方をしなければいけないのではないかなーと。そこに、ちょっとした金銭支援や技術アドバイスは入るべきだと思うし、そのマッチングはあっていいと思います。
ただ、必要なものは、それだけじゃないんじゃないでしょうか。ビジネスの各要素(顧客とかチャネルとか)について、それぞれ必要なサポートがあるわけですよ。そのうちの1つの要素である「製品」の実装リソースが不足しているケースでは、エンジニアの助言が必要になる、というだけなんじゃないかと。
だから、リーンキャンバス(各要素を図示したもの)をベースにして、それぞれの要素の不足部分を短期間でいいからサポートしてもらえるような、そういった形の支援について、マッチングする仕組みがあればいいんじゃないでしょうか。あるいは単に、自分はこういう形で補ったよ、というノウハウ共有だけでも十分な気がします。
というわけで、その第一歩として、このエントリーを通して私は、資金調達とエンジニア確保に関する1つの知見を、ささやかながら共有させていただきました。異論反論は山ほどあると思うので、ぜひお聞かせいただけると嬉しいです。
おわり。
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