2014/07/07

顧客分析ツールで創作の登場人物にリアリティを持たせる

文章を書き慣れるために、とにかく記事を更新していきます。



【この記事の要約】

*前提:人間の行動・心理を分析するためのマーケティング手法があります。
*主張:それを小説執筆などの創作活動に応用してみてはいかがでしょうか。
*結果:あなたの作品のキャラクターは、より現実的な存在になります。

*具体例① ジャーニーマップ:「カフェに入ってから注文する」といった1つのアクションについて、一連の行動を時系列でマッピングします。

*具体例② 共感マップ:1人の人間について「言動/態度」(アウトプット)、「見聞」(インプット)、「思考/感情」(内面)、「Pain/Gain」(欲望)で要素分解します。



【本題】

1:人間を理解するためのマーケティング手法がある。

企業のマーケティング活動について、脚本術や物語作法を応用しようとする流れが一部に存在します。コミュニケーション面では「いかに分かりやすく話を伝えるか」「相手に寄り添えるか」「相手を引き込めるか」が要求されるからです。

また、それだけではなく様々な顧客分析手法が登場しています。ユーザーについて理解しなければ、使ってもらえる製品やサービスを開発することはできないからです。上辺だけのアンケート結果では参考にならない場面も多々あります。だからこそ、いかに顧客の深層心理まで読み解くかが重要だったりするのです。

HUNTER×HUNTER風に言うと「何を思い、何に怒り、何を好み、何を求めるか、どこを旅し、誰と出会い、どんな経験をするのか。それら全てが」1人の人間としての顧客を「形づくるのです」。そういった顧客のインサイトと向き合うために、色々なツール・手法が開発されています。

そこで、今度は反対に「小説や漫画などの創作活動を行う人が、マーケティングツールを逆輸入したら面白いんじゃないか」ということを思い立ちました。



2:具体例「ジャーニーマップ」

顧客の一連の行動を時間軸でマッピングする手法です。例えばスターバックスでは、お店に入ってからお店を出るまでに、顧客がどのような行動をするのかを分析しています。その上で、より快適な空間を提供するための改善努力を行っているのです。

参考:User Experience Journey Map - ユーザーエクスペリエンス・ジャーニーマップ
参考:エクスペリエンスジャーニーマップ/カスタマージャーニーマップ

同様に、登場人物が2人でカフェに入る場面を想像してください。どちらがドアを開けるでしょうか、どのように開けるでしょうか、開けた人と開けてもらった人のどちらが先に店内の異変に気付くでしょうか。

2人がどんな人なのか、どんな関係なのかによって答えは変わります。もちろんそれだけではなく、なぜカフェに入ったのか、荷物はあるのか、季節や気温や天気はどうなのか、どんなカフェなのか、多くのチェーン店と同じようにドアは透明なのか、普段から来客は多いのか、初めて入る店なのか、などなど。

そういった事情が違うと「カフェに入る」というアクションを行う際にも、時系列での行動は変わってきます。

初めて入る店であれば、カフェの前に駐輪している自転車の数に圧倒されてしまい「空席はないかもしれない」という半ば諦めた気持ちで、硝子ドアの向こうを覗き込むでしょう。ドアを実際に開けるのはその後です。

しかし、普段から来店していれば、その自転車が隣のビルの進学塾に通う学生たちのものだと知っているので、安心しきった気持ちで躊躇いなくドアを開けるでしょう。

1つのアクションを終えるまでに、どんな行動を取っているか、取り得るか。本来取りたかった行動を期待通りに取ることができるのか、できないのか。その際にどんな感情が生まれるか。

本人が意識しているかどうかさえ明確ではないレベルで、その人間の行動を分析できているでしょうか。想像だけで文書化するのは難しいものがあるので、時系列での行動や感情といったものを図にしてしまいましょう。



3:共感マップ。

ある人間について「見たもの/聞いたこと」(外部からインプットされた情報)、「発言/行動/態度」(外部にアウトプットした情報)、「思考/感情」(外部とのやり取りによって影響を与え合う内面)、「Pain/Gain」(結果として得るマイナスとプラス:背景となる苦痛や欲望)を要素分解します。

参考:ファンが共感する6つのポイントがわかる「共感マップ」の簡単な利用法
参考:『図解ビジネスモデル・ジェネレーション ワークブック』無料サンプルの該当頁

例えば、カフェに入った先輩♂と後輩♀。先輩は財布を取り出そうとしますが、肝心の財布は鞄の奥に入り込んでしまったようでスマートに取り出せません。何とか支払いを終えた後、後輩がスムーズに財布を取り出すのを見て、先輩はもやもやします。

背景には、異性の後輩に良く見られたいという下心(Gain)があります。しかし、財布を取り出すことに時間を掛けてしまいました(行動)。

たとえ実際には相手が気にしていなくても、店員や後輩やレジに並ぶ他の客が自分を待っているという事実。公共の場で他人に迷惑を与えることが恥だという社会通念(思考)。相手に恥を見せてしまったという実感。その結果、生じる焦り(感情)。

さらに、後輩がスムーズに財布を取り出した(見聞)ことで、それができなかった自分との格差を感じ、ショックを受けます(Pain)。後輩のことをまだ良く知らないのであれば、彼女はしっかりしている人間なのだろうか、なさけない失望されたのではないか、と絶望しています。

ところが、実は財布を取り出す時間は大差なかったのです。彼女側視点で物語を描くと、先輩が会計を行っている待ち時間で、財布を取り出しただけだったのです。しっかりものではありません。自分が財布を取り出すことに意識を取られて、先輩の焦り具合にさえ気付いていません。

しかし、先輩はどうでしょうか。下心(Gain)を満たすという目的の達成から遠ざかり、ショック(Pain)を受けています。このギャップを解消するためには、何らかの手を打たなくてはいけません。次にアウトプットされる言動は、この深層心理の影響を受けているはずです。たとえ本人が意識していなくても。あるいは意識した上で、不自然にならないように平静を保とうとするかもしれません。

その結果、焦りで声のボリュームが少し上がってしまうとしましょう。すると、後輩は「公共の場で大きな音を出している自分たち」の存在が周りに迷惑を与えているように感じるかもしれません。そんなことが何度か続くと、遊びに誘っても「今日はちょっと……」と断られるようになるかもしれません。

あー、そういうことだったのか。



4:作品のリアリティは登場人物のリアリティ。

いかに時代考証を重ねた歴史大作であっても、いかに分厚い設定資料で塗り固めたファンタジーであっても、登場人物の言動や思想にリアリティがなければ、作品としての魅力は損なわれてしまうように思います(その不自然さが読み手に対して独特の魅力や安心感を与える場合は別ですが)。

特に「作者にとって都合の良い展開に誘導するために、無理矢理キャラクターを動かすこと」で不自然さが生まれます。言うはずのないことを言い、取るはずのない行動を取る。物語がキャラクターを動かす状態です。

そうではなく、キャラクターが自発的に行動し、結果として物語が動く。作者の意思を超えて、登場人物が自分の意思で自分の人生を生きる。作者はただ必死に追いかけて物語の結末を見届ける。これが1つの理想と言えるのではないでしょうか。



おわり。

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